尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.9
職務発明における「奨励金」と「報酬」の違い
中国における職務発明の特許権は会社に帰属しますが、この場合、会社は発明した従業員に金銭を支払う必要があるのでしょうか。
会社が特許権を取得した場合、発明者に「奨励金」を与える必要があり、特許の実施後は合理的な「報酬」を与える必要があります。
では、複数の人が発明に関与した場合、誰に奨励金・報酬を支払うことになるのでしょうか。この場合、「発明者」に奨励金・報酬が支払われます。「発明者」とは、発明の実質的特徴に対して創造的な貢献をした人をいいます。また、以下は「発明者」には含まれません(特許法実施細則第13条)。
①発明を完成させる過程で、開発などの活動を単に組織した人
②設備の提供など、物質的・技術的条件の利用について便宜を提供した人
③その他の補助作業を行なったに過ぎない人
発明者に支払う奨励金・報酬は、会社と発明者が奨励金・報酬の方式、金額について合意をした場合、これによります。また、法律に基づいて会社の規則を定めた場合も同様です。このような合意や会社の規則がない場合には、以下の状況によって異なります。
(1)奨励金の金額、支払時期について
(特許法実施細則第77条第1項)
発明特許の場合は1件3,000元以上、実用新案特許、意匠特許については1件1,000元以上を支払わなくてはなりません。この奨励金は特許権が公告された日から3カ月以内に支払う必要があり、発明者の提案が会社に採用されることにより完成した発明については、奨励金を可能な限り多く支給しなくてはなりません。
(2)報酬の金額、支払時期について(同細則第78条)
特許の実施後に支払われる報酬については、会社が①自ら実施した場合と②第三者に実施許諾した場合で異なります。
①自ら実施した場合:
a.発明特許、実用新案特許の場合実施による営業利益の2%以上(特許権の有効期間内に毎年)
b.意匠特許の場合実施による営業利益の0.2%以上(特許権の有効期間内に毎年)
②第三者に実施許諾した場合:受取った使用料から10%以上
会社・発明者間の合意や会社の規則がない場合の金額を整理すると以下の通りになります。予め奨励金、報酬について会社の規則や合意を定めておくことが重要です。
代表弁護士、慶應義塾大学法学(商法)博士。西村あさひ法律事務所(東京本部)、君合律師事務所(北京本部)での執務経験を経て、2014年から深圳で開業、華南地域の外国系企業を中心に法務サービスを提供。主な業務領域は、外国企業の対中国投資、M&A、労働法務、事業の再編と撤退、民・商事訴訟及び仲裁、その他中国企業の対外国投資など。
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