香港バプティスト大学がハイブリッド米の高効率育種に成功

2023/01/11

食糧危機を救う「ハイブリッド食品」とは
生物は、遺伝的に遠縁の品種間で雑種を作ると、その一代目に両親より優れた形質が現れ、しかも均一な性質を示すことが知られている。このできる限り異なる性質のものを掛け合わせてできた子どものことを、ハイブリッド品種、雑種第一代、F1品種などと呼ぶ。
ハイブリッド品種で作られた農作物は、収穫量が多くなり、寒さや病気に強く耐病性にも優れているため、いまや農業界になくてはならない存在となっており、スーパーの店頭に並ぶような野菜やくだもの、新品種の花などの栽培では既にほとんどがこうした種類のタネで作られている。アメリカではトウモロコシの栽培面積の95%がこのハイブリッドによるもので占められ、80年前に比べ農地は3%減少しているにも関わらず収穫量は6倍になったという。またこれは伝統的な育種技術を用いて作られるため、遺伝子組み換え技術ではない。
ただし一度掛け合わせた一代目以降の作物は不ぞろいになるため、農家は毎年、新しいタネを購入しなければならないという課題もある。ただこのことにより、高級フルーツなどのブランド農作物を育てる企業からすると、コピーを作られないという利点もある。kome

「ハイブリッド稲」で世界をリードする中国
米は世界の約半数の人が主食としており、稲の生産性向上は食糧問題解決の糸口になるとして注目されてきた。そんなハイブリッド稲の研究分野において世界をリードしているのが、中国だ。インドと並び14億人と桁外れの人口を抱え、食糧確保が国家の政策課題のひとつである中国。湖南省には、国立のハイブリッド稲研究センターがあり、国をあげてハイブリッド稲の開発が進められている。また中国はハイブリッド稲の海外進出も推進しており、現在、中国で作られた稲が、パキスタンやバングラデシュ、インドネシア、マダガスカルなどで栽培されているという。
一方、日本はどうか。日本では良食味米の開発に力が注がれることが多く、多収化は比較的軽視されてきた。というのも、中国では収量を増やすことを目的にハイブリッド品種の栽培が主流になっているが、日本はそもそも1人当たりの米の消費量が世界30位(国連食糧農業機関の2018年の統計データより算出された推定消費量比較)と少なく、過剰米が問題となっているほどなので普及は難しいという現状があるのだ。ただ、多収に加えて収穫時期を分散させられる利点があるとして、その研究が勧められている一部地域もある。目下の課題は、5~6倍の種子価格、肥料も1.5倍ほど多く必要、草丈が長く茎も強いため農機具の損傷による機器メンテナンスのコストがかかる点だという。

記念紙幣にもなったハイブリッド米の父
中国において、ハイブリッド稲の第一人者であることから「ハイブリッド米の父」とも呼ばれる人物が、農学者・袁隆平(ユアン・ロンピン)氏だ。1973年に通常の稲より20%も収穫量の多い優良品種を開発し、その後もさらに高収率で高品質な米の開発を成功させた。2021年に91歳で亡くなる直前まで研究を続け、これらの研究成果は、人口増加による食糧需要の増加と、都市化・砂漠化などに伴う食糧供給の減少などを要因とする世界の食糧問題を大幅に改善するものとなった。ノーベル賞の登竜門ともいわれるウルフ賞や、中国国家の最高栄誉として贈られる共和国勲章を受章しているほか、世界各国2,000人以上の研究者を育成し、食の安全保障の面でも世界に貢献している。306091-image_1 copy 3

香港の大学主導による新ハイブリッド稲が誕生
このたび香港バプティスト大学(HKBU)は、より効率的なハイブリッド稲の育種に成功したと発表した。これは袁氏とともに研究を進めてきた生物学科主任、張建華教授が率いるチーム主導による研究で、同研究チームは10年に渡る継続研究の結果、優良稲の「自発的な温度感受性雌性不稔 1」(TFS1)遺伝子変異を特定することに成功したという。これにより、手作業による収穫が必要だったハイブリッド米の完全自動収穫が可能となり、今まで以上に生産性が向上。収穫コストが大幅に削減できる。なお今回の研究には、HKBUのチームとは別に、湖南農業大学、広東農業科学アカデミー、カリフォルニア大学デービス校、および日本の農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)の研究チームが含まれている。

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