尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.60

2022/04/06

コロナ防疫関連の労働法律問題Q&A①

3月13日、深セン市は新型コロナウイルス感染拡大を受けて、3月14~20日に全市でバス、地下鉄など公共交通機関の運行を中止しているほか、住宅区、産業園区などでの封鎖管理を実施する防疫措置の実施を発表しました。これに伴い、住民のほとんどは在宅勤務を余儀なくされ、多くの企業は営業を中断することになりました。
また、東莞市でも住宅区などの封鎖管理を実施し、3月14~20日にかけて全市の公共交通機関の運行中止に加え、飲食店(企業や工場内の食堂を含む)の店内飲食、大型会議、展示会などを中止すると発表しました。
このような状況(以下、「防疫期間又は防疫措置」という」)の中で、企業(使用者)として労働関係の管理をどのように行うべきなのか、という視点に立ち、労働法律問題に関するQ&Aをまとめました。 ご参考になればと思います。

Q1:入社志願者に採用の通知をしました。防疫措置により入社手続きが延期されたことを通知すること、または採用を取り消すことはできますか?
A:労働契約法第7条は、使用者が労働者の使用を開始した日より労働関係を結ぶと定めています。 使用者から採用通知をしましたが、正式に労働関係が成立するまでは防疫措置の影響で客観的に入社手続きを行うことができない場合、労働者に入社手続きを延期する旨の通知をすることができます。
採用通知は契約要約に該当し、使用者に対して拘束力を有します。採用通知後、正式採用まで企業は労働者との協議を経て採用を取り消すことはできます。企業が一方的に採用を取り消した場合、企業は契約締結過失責任を負い、労働者の関連損害を賠償しなければなりません。

Q2:労働者はまだ試用期間内にあり、防疫期間内に試用期間が満了しますが、当該試用期間を延長することは可能ですか?
A:労働契約法第19条によると、同一使用者と労働者は1回に限り試用期間を約定することができます。防疫措置により、労働者が試用期間内に正常労働を提供できない場合、使用者と労働者が合意の上、試用期間を順延することができます。ただし、順延期間は労働者が正常労働を提供できない時間を超えてはなりません。

Q3:防疫期間に労働契約が満了する場合、企業は労働契約を終了することはできますか?また労働契約を更新できない場合、労働契約書を締結していないことを理由に、2倍の賃金差額を支払わなければなりませんか?
A:防疫期間に労働契約が満了する場合、企業は労働契約の期間満了日に労働契約を任意に終了することができず、「人力資源社会保障部弁公庁の新型コロナ感染によるコロナ防疫措置期間における労働関係の適切な処理に関する通知(2020年5号)」第1条に基づき、新型コロナ感染患者、感染疑いのある患者、密接接触者は隔離治療期間または医学的観察期間および政府隔離措置もしくはその他の緊急措置により正常労働を提供することができず、当該期間に労働契約が満了する場合、労働者の医療期間満了、医学的観察期間満了、隔離期間満了または政府が取った緊急措置が終了する日まで順延しなければなりません。前述の事由は、労働契約順延の法定事由に該当しますので、企業は書面労働契約の未締結による2倍の賃金差額を支払う必要はありません。

Q4:労働者が新型コロナ感染患者、感染疑いのある患者、密接接触者などに該当し、隔離治療や医学的観察などの措置が必要な期間に給与はどのように支給しますか?
A:広東省人社庁の「新型コロナウイルス感染症事態に積極的に対応し労働関係関連業務の遂行に関する通知(2020年13号)」によると、使用者は通常の勤務時間に従い隔離治療期間または医学的観察期間と政府による隔離治療実施期間の給与を支給しなければなりません。労働者が政府の防疫統制規定を遵守しなかったため隔離治療または医学的観察を受けた場合は当該期間の給与を支給しません。

Q5:労働者が居住している団地(住宅地)が閉鎖措置を受けた期間の賃金はどのように支給しますか?
A:労働者が法に基づき隔離された新型コロナ感染患者、病原保有者、感染疑いのある患者、密接接触者に該当せず、居住地域が閉鎖された場合、(1)使用者の手配により電話、インターネットなどの方法により正常労働を提供した場合には正常労働に準じて賃金を支払い、(2)使用者が年次有給休暇、自社独自の福祉休暇などの各種休暇を手配した場合には休暇関連規定により賃金を支払い、(3)労働者がその他の方法を通じて正常労働を提供できず、休暇も手配できない場合、休業期間(停工停産期間)の関連規定を参照して労働者の賃金を支払う必要があります。すなわち、1つの賃金支給周期(最長30日を超過せず、休日、法定休日など各種休暇を含む)内の場合は、労働契約に約定した基準に従って賃金を支給しなければならず、1つの賃金支給周期を超えた場合は使用者が生活費を支給し、生活費は現地最低賃金基準の80%を下回らない必要があります。

Q6:防疫期間中、労働者が在宅勤務をする場合、賃金はどのように支給しますか?皆勤賞を控除することはできますか?労働者は企業に残業手当の支払いを要求することができますか?
A:企業が労働者の在宅勤務を手配した場合、正常に労働を提供したものとみなします。労使双方間で在宅勤務期間の賃金待遇について特別な約定があり、当該約定が法律法規の強制的な規定に違反しない場合、労使双方が賃金支給について合意の上変更したものとみなして、労使間で約定した基準に従って在宅勤務期間の賃金待遇を支払うことができます。
労使双方間で在宅勤務期間の賃金支給について特別の約定がない場合には、正常な労働提供により賃金を支給しなければなりません。在宅勤務も正常な労働提供に該当するため、在宅勤務期間は正常な出勤とみなして、使用者は在宅勤務を理由に労働者の皆勤賞(ある場合)を控除してはなりません。
在宅勤務期間中、労働者は比較的柔軟で自主的に勤務時間と休憩時間を割り当てることができるため、一般的に残業手当を支払う状況は存在しません。ただし、労使間で在宅勤務期間中に残業事実があることを確認した場合、法定基準に基づいて法律により残業手当を支払わなければなりません。

Q7:防疫期間中に在宅勤務を通じて労働を提供することができない場合、企業は労働者の賃金を払わないか、または休暇を取るように手配することは可能ですか?
A:労働者が在宅勤務の条件を備えていない場合、使用者は年次有給休暇、企業独自の福祉休暇または年度内の休日を優先的に割り当てて、該当する休暇の規定に基づいて労働者の賃金を支払うことができます。ただし、企業は労働者が私的休暇(事暇)を取るように一方的に割り当てることはできません。

Q8:企業は疫病の影響を受けて操業を中断することができますか? またその場合、労働者の賃金はどのように支給しますか?
A:企業は操業を中断することが可能です。企業は新型コロナウイルス感染症の影響で生産経営が深刻な困難に陥り、弁済能力を喪失する可能性がある場合、法により操業を停止することができます。休業期間が1つの賃金支給周期を超えていない場合は、使用者は通常の労働時間に基づいて給与を支払います。1つの賃金支給周期を超え、かつ企業が労働者に対し業務を手配していない場合は、最低賃金の80%を下回らない金額を労働者の生活費として支払う必要があります。生活費は、企業の再稼働または労働関係の解除/終了日まで支給されます。

Q9:防疫期間中、労働者が企業の手配した年次有給休暇や福祉休暇の使用を拒否した場合、どのように対処すべきですか?
A:「従業員年次有給休暇条例」第5条第1項に基づき、「会社は生産、業務の具体的な状況に応じて、従業員本人の意思を考慮して、従業員の年次休暇を一括的に手配する」ということですので、この規定により、従業員の年次休暇は原則として双方の合意が必要です。
企業が防疫という特別な状況に基づいて従業員に対し年次休暇を手配することは、客観的な理由があり、従業員はこれを拒否する場合正当な理由を提示する必要があります。会社の手配を拒否した従業員に対しては年次休暇を放棄する旨の書類を提出するよう要求し、これを保存することを提案します。従業員が企業側の年次休暇の手配に同意しないが、正当な理由も提示しない場合、使用者は従業員に年次休暇を直接割り当てることができ、年次休暇の賃金を別途支払う必要はありません。

Q10:企業は操業を中断して再開し、その後再び操業を中断することができますか?可能である場合、労働者の給料はどのように支払いますか?
A:企業は再度操業を中断することが可能です。ただし、客観的で合理的な理由がなければなりません。広東省高級人民法院、広東省人力資源社会保障庁が発表した「コロナ関連の労働人事争議事件に関する問題の解答」第6条第7項の規定に基づき、使用者は操業停止後に操業を再開し、再び操業を停止した場合、毎回の中断ごとに再度計算しなければならず、2回の操業停止期間を累積計算してはなりません。したがって、操業再開後に再び操業を中断することができ、操業再開後に再び操業を中断した日から法律規定に従い労働者に対し最初の賃金支給周期の休業期間の賃金及び二番目の賃金支給周期から支給すべき生活費を再び計算して支給する必要があります。
(続く)


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尹秀鍾 Yin Xiuzhong尹秀鍾 Yin Xiuzhong
卓建律師事務所深圳本部 パートナー弁護士、法学博士 (慶應義塾大学)

【主な業務領域】
外商投資、移転/撤退、知財侵害、紛争解決

 

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