尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.38
従業員の守秘義務と競業避止義務
中国現地で採用した従業員が他社に当社の秘密情報を漏らしたり、在職期間中又は退職後に競合ビジネスをすることを防ぐにはどのような方法があるのでしょうか。
秘密保持事項
従業員が会社の秘密情報を外部に漏らすことを防ぐため、秘密を保持することを契約(秘密保持契約又は労働契約における秘密保持条項)で合意する方法があります。これを秘密保持事項といいます。但し、秘密保持事項について合意できるのは、会社の営業(商業)秘密と知的財産権とされています。
会社の「営業秘密」とは公知ではなく、営業利益(商業価値)があり、かつ権利者が相応の秘密保持措置を講じている技術情報及び経営情報等営業情報を指します。
「秘密保持措置を講じている」と認定されるためには、社内規則等で秘密情報や秘密情報のある場所へのアクセス権者やアクセス方法を定めたり、秘密情報の媒体に秘密である旨の表示をしたり、秘密情報に対してパスワード等を設定することも一つの要素です。
また、対象となる秘密情報が秘密保持契約に記載されているか否かも考慮されるため、従業員が秘密を保持すべき内容については秘密保持契約で明確にしておくことが重要です。なお、秘密保持事項については、役職の有無を問わず全ての従業員について合意することができます。
競業避止事項
会社を退社した従業員が、退社後すぐに会社の秘密情報を利用して競合ビジネスを行うと、その会社にとっては大きなダメージとなり得ます。
そのため、退職後も会社と競合ビジネスに従事することを禁止する内容(即ち、競業避止条項)を、労働契約や秘密保持契約等に記載することができます。但し、退職者には生活を維持するための営業の自由(又は職業選択の自由)があるため、競合ビジネスに従事することを無制限に制約できる訳ではありません。
競業避止条項に定める内容には、以下3点で法律上一定の制限があります。
①対象者
会社が競業避止義務を課すことができる対象者は、「高級管理人員、高級技術人員その他の秘密保持義務を負う人員」に限定されます。
②競業避止期間
競業避止義務を課すことができる期間は、退職後2年間を上限としています(2年以内であれば双方間で合意の上自由に競業避止期間を約定することが可能です)。
③代償としての経済補償の支払
従業員に競業避止義務を負わせるためには、競業が禁止されることの補償を支払う必要があり、競業避止義務を負っている期間中、毎月支払うことを労働契約又は秘密保持契約等で定めることになります。当該補償の金額については、会社所在地域で定めている補償基準を下回ることは許されないため留意が必要です。
また、会社と従業員は従業員が競業避止義務に違反することについて、違約金を約定することができます。従業員が違約し、会社に損失を与えた場合は従業員は会社に賠償責任を負います。
なお、従業員は在職期間中において競合ビジネスをすることはできないと解されていますが、労働契約又は秘密保持契約等で明確に予め定めておくとよいでしょう。
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尹秀鍾 Yin Xiuzhong
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