総合健康診断サービス「メディポート」健康コラム:視力のお話

2018/08/22
メディポート代表:堀 眞

メディポート代表:堀 眞

日本人全体の視力が低下しているのではないかと、最近漠然と思うようになりました。健康診断という仕事柄、多くの人の視力データを毎日見ていますが、ここ十数年の間に特に子供の視力低下が著しいように感じます。もちろん測定環境やそのルールにも関係することですが、全体的な視力の低下という現象は間違いなくあるものと確信しています。

では視力が低下してしまう原因はどこにあるのでしょうか。近年近視が増えているということになると環境要因が大きいのではないかと容易に想像できるものです。特に香港に住んでいると、部屋が暗いから視力が低下しているのではないかとの意見を耳にします。在住日本人の感覚的なもので根拠はないのですが、一概に間違いであるとは言えません。しかし、これでは間接照明で暗めの照明を好む西洋人などが、特別に視力が悪いわけではないので説明がつきません。日本では読書は明るい場所でと教えられますが、欧米では反対に明るいところで読書すると目が悪くなると言われるそうです。暗い環境で目が悪くなるのであれば、照明が乏しかった昔の人はみな視力が弱かったのかというと、これはどちらかというとまったく反対で、当時の人々は現代人と比べて格段に視力が良かったようです。明るさと視力には明確な相関性はなく、目と見ている対象物との距離が大切なポイントになるようです。例えば、本を読むときには30㎝以上目を話して読むようにと指導を受けた人も少なくはないと思いますが、これはおそらく正しいことです。

近業とは最近の業績や作品の意味ですが、特に眼科領域においては「近くのものをみる作業」のことを言うそうです。近くでテレビを見ないよう、子供のころに親から口うるさく注意されたことを覚えている方も少なくはないと思います。その頃の「離れる距離」の単位はメートルでした。それがパソコンの普及によって、モニターからの距離を注意されるようになったことで、その単位は㎝になり一気に近くになってしまいました。さらに最近はスマホや携帯を誰もが使う時代です。その距離がさらに短くなっています。このように考えると、近視人口が増えることの理由がわかったような気もしますが、もちろん遺伝要因も大きいので、近視が進む理由を単純に結論付けることはできません。

香港中文大学のShun Min Tang氏らは、血液中のビタミンD濃度が近視と関係しているとの研究結果を発表しています。近視とビタミンDの関係については多くの研究がなされていますが、中には関係を否定する結果もないわけではありません。最近、日本人の過剰な日焼け止めが、ビタミンD合成の障害になって骨の形成に影響していることが明らかにされましたが、近視に関しても関係がある可能性が指摘されているわけです。

毎朝、眼鏡をかけることに始まり、眼鏡をはずすということを「その日最後の作業」として繰り返している私の生活。慣れているので苦にはなりませんが、私のような強度近視のものにとって、視力に問題がない人はとても羨ましいものです。最近はこれに老眼が加わったのでますます不自由を感じてしまいます。最新の治療として近眼老眼ともに適用となる「多焦点眼内レンズ」を利用することもできるようですが、とにかく良好な視力はいつまでも維持したいものですし、すでに近視が進んでしまった人であっても、なんとかそれ以上の進行は止めたいものです。

紫外線に適度にあたってビタミンDの合成を促すことも良いのかもしれませんが、外出は眼を休ませることにもなります。勉強にしてもゲームにしても、近業が多いほど近視が進行するリスクが高いことは明白です。外に出て少しでも遠くのものを見る時間を長くすることはとても重要なことになります。昔の子供は良く外遊びしたので紫外線に当たることも多かったはずですが、当時は近業が極めて少なかったことが近視の子供が少なかった最大の理由であるものと思われます。

近視は徐々に進行していくので、その事実を自然と受け入れてしまいます。そのため普段は軽度のものであればほとんど気にもならないことなのかもしれません。しかし近視は確実に進行することが多く、いつのまにか生活に支障が生じることになります。近視の進行を遅らせるためには、スマホやゲームはしない。テレビも視ないことです。近業である勉強することさえ止めてしまったほうが良いはずですが、これらはまったく現実的なことではありません。現代生活には近視傾向を助長することが多くあるのは確かであり、その要因を可能な限り排除するだけで、きっと良い効果が期待できるはずです。

子供の視力低下が著しい現代です。子供の眼を休ませるためにも近業を如何に減らすかを親が具体的に考えていかなければいけません。ちなみに視力が良いことは、将来の職業選択の幅が広がることでもあります。もちろんどんなに気を付けていても視力は低下は免れないことなのかもしれません。低下していく視力はその都度適切に矯正することが大切で、見えにくいことを我慢してはいけません。

視力は常に正しく矯正しましょう。人生において、たった一度しかないかもしれない素晴らしい一瞬の出来事を見逃してしまわないためにも。

Capture_2018.07宇宙飛行と食中毒予防

Pocket
LINEで送る