メディポート健康コラム:気候温暖化と病気の関係

2024/01/31

地球温暖化対策は人類にとって喫緊の課題となっていますが、先進国と開発途上国の間で意見が対立するなど、議論は期待ほど進展していません。2015年のパリ協定では産業革命以来の平均気温の上昇を1.5~2.0℃に抑えることを目標としているものの、このまま本格的な対策が進まず化石燃料の使用比率を落せなければ、2100年までに2.7℃も上昇するであろうと予想されています。2.0℃とか2.7℃の気温上昇といってもあまりピンときませんが、すでに地球は沸騰化していると比喩されるほどの状態で、我々の生活の様々な分野に大きな影響が表れています。南極や北極の氷や各地の氷河が解け始めており、海水面の上昇が続き、南太平洋の島嶼国では国土が水没する危機が現実のものとなりつつあります。また、このところ大雨や干ばつ、あるいは夏の異常な高温など、我々を取り巻く気象現象が世界的に激しくなっていることも確かです。
気温のみならず海水温も上昇しており、漁業にも影響が出ています。北海道でサケの漁獲量の激減が懸念されている一方でこれまで漁獲がなかったブリが豊漁になっています。またスルメイカの漁獲が激減しているのも特徴的です。さらに千葉県を北限としていたイセエビも福島県での水揚げが目立って増えており、必ずしも悪い現象とは言えないまでも漁業者は大きな戸惑いを感じています。
農業分野ではミカンやリンゴの産地が北上しており、このまま温暖化が進むと近い将来北海道が美味しいリンゴの産地になる可能性もあるようです。西日本での生産が多かったミカンも現在は宮城県が栽培北限となっています。また熱帯亜熱帯の果物の栽培が九州で可能になるなど、果物の産地にも明らかな変化が起きています。このような現象が緩やかに起きていれば問題は大きくないのかもしれませんが、昨年は農作物に高温障害が起きたり、極端な水不足で米の発育障害が起きたりした地域もあり、農家に深刻な影響を与えました。今後、我々の食糧事情にも大きく影響しそうな状況です。

衛生害虫の生態変化
衛生害虫とは、ヒトや家畜に何らかの害を与える昆虫やダニ類のことで、刺したり吸血したりするもの、病原体を媒介するもの、そして単に不快であるものを指します。この中で最も大きな問題は「病原体の媒介」です。不快なだけで健康上なんら問題にならないものであればまだ良いのですが、衛生害虫の多くは何らかの病原体を運ぶため、我々にとって極めて重要な問題をはらんでいます。なかでもとても厄介な存在が「蚊」です。40年ほど前になりますが、南太平洋の島国で私がマラリア対策に従事していたころ、「がんで死ななくなってもマラリアの流行は抑えられていないだろう」という話をある専門家から聞きました。がん治療の著しい進歩を見るとまさにその通りの展開になっています。

人類最大の敵
ヒトを最も多く殺している生物は何か。昔からヒトはほかの動物にその生存を脅かされてきましたが、知恵を持ったヒトは動物の世界では一応その頂点に立っています。実は最も恐ろしく、ヒトを多く殺している生物は蚊なのです。ちなみに2番目に人を殺しているのはヒトです。蚊が媒介する感染症はマラリアやデング熱を筆頭に、ウエストナイル熱、チクングニア熱などいくつもありますが、中でもマラリアが人類に及ぼす影響はたいへん大きく、年間2億4000万人が感染し、60万人以上も死亡しています。マラリアは細菌よりも高等な原虫に属し、形態を変えながらヒトと蚊の間を行き来しながら生活史を形成しています。主に熱帯から亜熱帯地方に感染者が集中していますが、地球温暖化の影響でマラリアを媒介する蚊の生息域が拡大する可能性があるのです。日本でもマラリアが流行していた時期がありますから気候だけの問題ではありませんが、気温が上がることは蚊の生息にとって好都合であることに違いありません。

鳥インフルエンザ
鳥インフルエンザは渡り鳥がウイルスを運びます。夏のあいだ北国で過ごした鳥が、極寒を避けて暖かい南方へ渡る際に、糞とともに排泄されたウイルスを拡散させてしまいます。渡り鳥はこのウイルスに耐性を持っていますが一般の家禽類に対しては猛毒で、養鶏場でひとたび感染が起きると瞬く間に感染拡大してニワトリの大量死が起きます。気温が下がる秋口に毎年のように鳥インフルエンザで養鶏場が大打撃を受けるのはこのためです。鳥インフルエンザウイルスは稀に人への感染も起こします。温暖化が進むと渡り鳥の生態に変化が生じ、将来的にヒトの新型インフルエンザの発生にも影響することでしょう。

太古のウイルスが復活する
地球温暖化は我々が想像するよりもはるかに広範囲に影響します。そのひとつが健康面への影響ですが、実は気温上昇で溶けた永久凍土から出土する太古の動物の死骸から未知のウイルスが発見されています。病原性など今のところ明らかになっていませんが、人類にとって新たなリスクとなる可能性は否定できません。
人類が便利さや快適さを追求してきた結果として大気中の温暖化ガス濃度を上昇させてしまったのです。今は結果として自分の首をじわじわと絞めていることに各自が気付き、自分の問題として捉えて個人でも可能な限り対応するべきではないかと考えます。


堀様1藤田医科大学卒業。臨床検査技師。
日本医科大学付属病院勤務の後、青年海外協力隊に参加し、南太平洋ソロモン諸島ガダルカナル島に2年間派遣される。世界保健機関WHOのプログラムの下でマラリア対策プロジェクトに従事。帰国後に就職した巡回健診事業を行う会社にて香港に赴任。健康に対する自身の理念を実現するため、1999年3月メディポートを設立し現在に至る。


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