ホテル・ニッコー広州 「日本料理弁慶」
熱心なスカウトにより北京から来広したという伊藤満料理長。
彼が織りなす伝説と呼ばれる握りを再び求め、今夜はここに来た。
ネタ本来の風味、食感が存分に生かされた、神の手から生み出される「作品」ともいえる握りが織りなす食の芸術を堪能する。
何故か密談でもしたくなるカウンターに腰を下ろし、店内を見回す。 眼光鋭いその男の眼はさらに鋭く研ぎ澄まされ、視線は一心にネタと銀シ ャリに注がれている。 毎週定期的に日本から直輸入されているという本日のネタ25種が整然と並ぶ中、 神の手からは次々と輝かんばかりの握りが生み出され、 目の前に並べられていく。 そして美酒に酔いながら、 舌でも目でも楽しめるというその美しい寿司に舌つづみを打つ。
東京では頻繁に目にしていた新鮮なアオリイカやヤリイカの握りを久しぶりに食すことができ、 私の心はみるみる多幸感に満ち溢れていった。 美味い、 と思わず唸る。 至福の時だ。 季節により献立を変えるのは、 いつの時期も旬の素材そのものの味を楽しんでもらいたいから、 と眼前で微笑む彼の笑顔は当時と変わらない。
実は遡ること5年前、 北京 ・ 三里屯の寿司屋で彼の握りに出会ったのが最初であった。 寿司通の私はあれから主都市を中心に、 中国国内にて十数軒の有名所を巡ったが、 あの時北京で食べた神の手による握りのことは、 いつまでも忘れられないでいた。
新鮮なネタもさることながら、 なんといっても彼の手にかかると輝き出す銀シャリに注目したい。 酢加減、 炊き加減、 そして口の中にほんのりと残る絶妙な甘み。 これが日本産のネタと相まって最高なのだ。 温かく柔らかい銀シャリが、 ホロホロとほどけていく。 間もなくそこに絡みつく鮮魚の旨味。 口に入れるととろけるように崩れていくのに、しっかりと握られているのだ。 このバランスのいいことといったら、 さすがは神の手である。 したがって和牛のたたき握りやボタンエビなど、 鮮魚以外でも寿司の楽しさ、旨さが味わえるのだ。
北京から持ってきた十数本の包丁は、7〜8本にまで減ってしまったという。 神の手と、 熟練された技と、 ネタを見定める確かな
目、 腕。 板前達は、 彼の包丁にこそ神が宿っているのではと、 こぞって欲しがった。
おまかせコースで、 この日は生鯖、 シマアジ、 太刀魚の刺身が並ぶこととなった。 金目鯛の塩たたきはあっさりとしたポン酢でいただく。 軽くソテーされた帆立には、 葱、 生姜、 オリーブ油をベースにしたソースが添えられる。 このソースの隠し味には、 意外にも沢庵が使用されていた。 紛れもなく彼の手から生み出された芸術を次々と平らげる。伊勢海老の汁は日本の港町を回想させた。
まさか、 再び彼の作品に出会えるとは―――。
偶然引き寄せられた運命に日本酒で乾杯しながら、 「男の中の男の寿司」 とはこういうことなんだなぁと、 引き続きとろけるような銀シャリとネタのハーモニーを黙々と味わったのであった。
■季節のおまかせコース:680元/人(カウンターのみの対応) 、 毎週水曜日限定。
春の特別コースが登場。 選りすぐりの旬の味を堪能できる。 この機会に是非ご予約を。
ホテル・ニッコー広州 日本料理弁慶
住所:広州市広州市天河区華観路1961号1階
予約電話:(86)183-1142-4731(王・日本語可)
時間: 11:30~14:00、18:30~22:00(ラストオーダー 21:30)