香港在住日本人主婦が綴るリレーミニエッセイ Vol.153
Vol.3
スパイが暗躍する香港アナザーサイド小説
こんにちは、KOKURIです。読書が趣味と言っても、好きなジャンルは人ぞれぞれですよね。私にとって、つい食べてしまうポテチのような存在は推理小説。中学生で本格推理にハマって以来、ハードボイルドに寄り道し、最近は推理ものの従兄的存在であるスパイ小説に挑戦中。でもスパイ小説は世界史や海外情勢に疎いと読みこなせないので、読破できないこともあるのですが…。というわけで、今回は香港が舞台のスパイ小説をご紹介します。
香港返還の裏に隠された幻の機密文書を追え!
服部真澄『龍の契り』
なぜイギリスは当初の姿勢を変え、香港を無条件で中国に返還したのか?英中交渉のジョーカーともいうべき機密文書の存在をめぐり、返還前夜の香港を舞台に、米・英・中・日が争奪戦を繰り広げる本作。「国際知略エンターテインメント」と銘打たれているだけあって、蘊蓄満載ながらアクションシーンもあり、ぐいぐい読めます。英国諜報部やCIA、日本の外交官、アジア系ハリウッド女優に、香港の裏社会を牛耳る凄腕ハッカーなど、盛りだくさんの登場人物たちが、香港に引き寄せられ、互いの真意を隠しながら、かつて英中で交わされた密約の証拠を追います。深水埗の路地裏にハイテク企業が隠れていたり、上海香港銀行(HSBC?)から「ミッション・インポッシブル」さながらの計画で秘密のファイルを盗んだり、香港在住日本人へのサービス満点(笑)。東洋と西洋の狭間にある香港の複雑さと魅力を、劇画調のスケール感で味わわせてくれる作品です。
英国情報部vs.モスクワのスパイ戦争 第二幕の舞台は香港!
ジョン・ル・カレ『スクールボーイ閣下』
スパイ小説の大御所といえばジョン・ル・カレ。でも文章が重くて読みにくいことでも有名です…。英国情報部のスマイリーと、ソ連諜報部の指揮官カーラとの戦いを描く「スマイリー三部作」は、第2作の舞台が香港!70年代のリアル香港が体感できます(そのせいか意外と読みやすかった)。シリーズ第1作で、潜入スパイによって壊滅的な打撃を受けたスマイリーたちが、今作では反撃に出ます。カーラにまつわる情報を洗い出すうちに、欧州から東南アジアへ続く謎の送金ルートが浮かび上がり、その裏には香港の実業家ドレイク・コウの存在が…。スマイリーの命を受けて香港に派遣された工作員ジェリーは、ドレイクの愛人リジーに近づきます。ドレイクの秘密が明らかになり、作戦が動き出した時、裏社会に絡めとられていくリジーを救いたいジェリーは単独行動を始め、事態は混乱。スマイリーは大局を見失うまいと苦闘しますが…。クライマックスは香港最南端の島「蒲台(ポートイ)島」。ジャンク船が集まる天后節の祭りが幻想的です。スマイリーは宿敵カーラに一矢報いるものの、結末にはほろ苦さが残ります。
「眠れる獅子は、いま、目覚めようとしている。中国の目覚め方によっては、新しい東洋の時代が拓ける。場合によっては、いつかアメリカよりも強い国になる。そのとき、日本は、そしてアジアは_?」『龍の契り』
「ハッピー・ヴァレー競馬場の芝は、おそらく世界一貴重な芝だろう。ほとんどないといっていい。日ざしと人の足でこちこちに固められた、ロンドンの市営遊園地のようなもののふちを、細い走路が巻いている。」『スクールボーイ閣下』
KOKURI(コクリ)のプロフィール
夫の異動のため、この10年で引越しは4回。書斎を持つ夢を捨て、現在の読書は電子書籍が中心。荷造りも面倒なので、ミニマリストになるべく修行中。