特集:日射しが眩しい香港島南へ!3

2017/01/27

利東
Lei Tung

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香港島のオマケのように浮かぶ小さな島、鴨脷洲(アプレイチャウ)。香港政府の公共団地、利東邨(レイトンチュン)はその小島の山の麓に1980年代後半造成された。真新しいMTR利東駅を出ると、約7,500戸を擁するこの利東邨の他に何もない静かな場所だ。

 

南丫島を一望のもとに!お手軽山登りへのお誘い

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鴨脷洲全体を地図で見ると、人々の生活は島の北と西側に集中しているのが分かる。その逆に南西側には何も無い。この「何も無い」あたりには二つの山がある。名前はいずれも玉桂山(ヨックァイサン)。実は二つの独立した峰を持った一つの山なのだろう。峰とはといっても標高は高い方で196m、もう一つがわずか143mで、高さ的には「小山」か「丘」と呼んだほうがふさわしいかもしれないが、小さいながらもすり鉢を伏せたような立派な円錐形をしている。利東邨はこの二つの山に間に位置している。そう、MTR利東駅はこの二つの「山」に登るための「ベースキャンプ」的位置にあるのだ!

手始めに標高の低い方の玉桂山に登ってみよう。利東からでも登れるのだが、急な階段が延々頂上まで続き、ヒザに爆弾を抱えている人にとっては選手生命にかかわる事態を招きかねないので(笑)、もっと楽な、というより「現実的」な道を登ることにする。

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登り道の入り口は利南道にある。MTRなら海怡半島(サウスホライズン)駅からの方が近い。車の通行もまばらで静かなこの山に沿った道を歩くと、車止めされた、玉桂山への入り口が見つかる。ちなみにサウスホライズンのマンション群は、80年代、小さな入り江を埋め立てて造成されたもの。それまではこの利南道あたりがその入り江の海岸線だった。つい50年前まで、ここは白波が砕ける海辺だったのだ…。と、しばし「ブラタモリ」的想像力を逞しくしてみよう。

さて、坂を登って行く。舗装された緩やかな坂なので小さな子どもでも登れるほど楽チンなはずだが、普段不摂生な生活をしている大人は100mも行くと息があがってくるかも(ハイ、自分のことです)。まあ、ゆっくりいきましょう。

少し行くと視界が広がり海を隔てたラマ島が見えてくる。良い景色には違いないが、まだまだ物足りない。さらに進む。ヘアピン的カーブを曲がると「玉桂山配水庫」の入り口に突き当たる。ここまでの道はこの配水庫を管理するためのものだったのだ。そして、山登りはここからが「本番」。左手のよく整備された小径を行くと、階段の入り口に。階段アタック開始だ。

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登りはじめるとすぐに「玉桂山配水庫休憩處」にがある。先ほどの玉桂山配水庫にフタをして、ちょっとした運動ができる眺めの良い公園に仕立てたものだが、金網ごしの海の眺めは、なんだか見る者をアルカトラスの囚人気分にさせてくれる…。

さて、この「休憩處」の先もよく整備が行き届いた階段がつづら折りに続く。急な階段登りで、この季節でも上着を脱いでしまうほどに汗ばんでくる。250段目あたりから(階段には50段おきに数字が記してある)視界が開け、振り返ると南西に絶景が広がる。テッペンまではもう少しだが、先に言ってしまうと眺めはこのあたりから400段目あたりがベスト。頂上は樹木に遮られてあまり景色は良くないのだ。

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火力発電所の3本の煙突と風力発電の巨大な風車が目立つ南丫(ラマ)島との間の静かな水道を、ノミの様に小さなサンパン、アバディーンの港に戻ってくる漁船、索罟湾に向かうフェリー、香港を離れる貨物船は右から、入ってくる大型コンテナ船は左から、そしてそれを出迎えるオレンジ色のパイロットボートなどなど、大小様々な船が行き交う。海と空と島と船、そしてサウスホライズンの高層マンション群が一望のもと。頂上制覇を待ち切れず、持参のビールで乾杯したくなるほどの景色だ(笑)。

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143mの頂上に着いてみると反対側の利東邨の方が高い!小さな東屋で休憩後、登って来た道を下ってもいいが、ここは利東邨側へと降りてみよう。隣の「高い方の玉桂山」を目の前に見ながら、まっすぐに下りて行く。冒頭にも述べたが、「こちらから登らないでよかった~!」と、しみじみ思うほどの急階段だ。手すりにつかまってゆっくり降りよう。終点のMTR駅のある利東邨にはあっけなく着いてしまう。

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利東道から玉桂山頂上までは、途中風景を眺めたり、写真を撮ったりしながら登っても約30分。MTR開通でアクセスも便利になり、思い立ったらすぐに行けてしまう「小さな山登り」。天気の良い週末にお弁当を持って家族で出かけてみてはいかがだろう。

ちなみに「高い方の玉桂山」登頂記は「続編」として次号PPW掲載予定。乞うご期待!

 

愛すべき「漁師町」鴨脷洲で和食をもっと広めたい

鴨脷洲のもう一つの公共団地「鴨脷洲邨」のバスターミナルの傍、鮮魚や野菜、乾物や雑貨店が並ぶ鴨脷洲邨街市(公共マーケット)の一角に、「なぜこんなローカルな場所に?」と、思わず首を傾げてしまう店がある。小さいながらもこの店「Ming-San Kitchen」の品揃えはすべて“本物”の日本製雑貨や食材だ。約10年、鴨脷洲に暮らすという、オーナーの加藤恵子さんに鴨脷洲のこと、お店のことなど、お話を伺った。

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加藤さんが鴨脷洲に住み始めたきっかけは「それまで住んでいた銅鑼湾の契約が切れたのを機にゴミゴミしていないところに住みたかったから」とのこと。高層の公共団地や高層マンションが立ち並んではいるが、加藤さんの言葉通り、海に囲まれたここ鴨脷洲は古くからの「漁師町」の風情を残している。香港島北岸の中環(セントラル)や銅鑼湾(コーズウェイベイ)の喧騒に比べれば、まだまだ「香港の田舎」を感じられる静かな場所だ。

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鴨脷洲大街には漁業用 品などを扱う店も

「和食」をもっと香港の人々の身近に
そんな「超ローカルエリア」鴨脷洲に加藤さんが「Ming-San Kitchen」をオープンしたのは昨年夏。「香港の大手日系スーパーやインターナショナル系スーパーには様々な日本商品が溢れるほどに並んでいるのに、使い方や食べ方が分からず商品の前で立ち尽くしている香港人の姿を何度も見かけてきました。誰かがアドバイスしてあげることができたらお客様は助かるだろうし、お店側は売り上げにつながるのに…」と、ずっと気にかかっていたという加藤さん。そこで「ごくごく普通の日本の家庭料理を紹介したい、広めたいという思いで、自分がやってみる事にしてみました」と思い切った。ターゲットはあえて富裕層に限らず、外食や外賣(テイクアウト)が一般的で家庭で調理することがまだまだ少ない公共団地に住む一般的香港人。始めてみると「何で日本人がここにいるの?と珍しがられます(笑)」とか。お話を伺っている間にも、開放的な店先に陳列された日本の食材を見つけて、興味津々な様子で地元の人たちが集まってくる。加藤さんは流暢な広東語で一つ一つの調味料の使い方やお酒について説明し、質問に丁寧に対応していく。「自炊率の上がってきた香港ですが、この鴨脷洲邨周辺はまだまだ自炊率は低く、生活自体も保守的で日本食との距離は近くありません。それでも、『味噌ってどれのこと?みりんってどうやって使うの?』と、自炊自体を始めてみたり、日本の調味料に興味を持ち始めた人も多くなっているようです」と、加藤さんは手応えを感じている。いまのところMing-San Kitchenでの「売れ筋」は味噌、みりん、ワンカップの日本酒などとか。加藤さんが始めた「香港における日本食文化の大衆化」ビジネスは、ただ売るだけでなく、日々香港の人たちと接しながら意見やリクエストに耳を傾け、「あれ?こんな商品がうけるのか!」と新しい発見を重ねながら、少しずつ日本食文化と一般的香港消費者の現状とのギャップを埋めつつある。

「鴨脷洲の公共団地に住む人々が普段「大牌檔(香港の大衆的屋台食堂)」を利用するように、気軽に行ける『本物の和食大牌檔』などもやってみたいですね。海鮮料理など、香港には日本酒や焼酎も合うメニューも多いと思うので、日常的にも楽しんでもらいたい。皆がワインを持ち込むように、大牌檔のテーブルの上に上撰とか焼酎とかが置いてある風景がごくごく普通の空間が作れたら嬉しいですね」と加藤さんは目を輝かせる。

「もちろん鴨脷洲でやりたいです!」と加藤さんが惚れ込む鴨脷洲の魅力とは何だろう。

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鴨脷洲風之塔公園内の 観音廟

漁師町の雰囲気はどこへ
加藤さんはその魅力を「海と新鮮で豊富な魚と、そこに暮す人々と自由な雰囲気」と答えてくれた。そして「オススメポイント」として挙げていただいた第一番は「鴨脷洲大街街市」。1999年から稼働しているこの街市は、漁港・香港仔(アバディーン)と至近で向かい合っているため、香港中の街市の中でも最も規模が大きく、扱う魚介の種類、鮮度ともピカイチではなかろうかと思われるほど、魚好きにはたまらない街市だ。魚好きでなくとも、生きが良くて珍しい魚介類を見学しているだけで楽しめる。この新鮮な食材を使った「熟食中心」の海鮮料理がオススメというのも頷ける。

その街市に隣接する「鴨脷洲風之塔公園」もいい。香港仔湾に面した公園はよく整備されており、行き交うサンパンを眺めながらのんびりと散歩を楽しむのにもってこいだ。ここの岸壁から対岸の香港仔を結んでいる渡し船に乗ってみるのも楽しい。

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ジャンクの帆をモチーフ にした「風之塔」

鴨脷洲で最も古い歴史を持つ鴨脷洲大街には漁網や船舶用品を扱う店なども見られ、漁師町の空気を残していたが、MTR開通に伴って西洋料理店なども進出し始めた。「ビルのオーナーも今はイケイケで店舗の賃料は高騰していますね」と加藤さん。今後この「のんびりした小さな島」もその雰囲気を変えていくことになるのだろうか…。

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海怡半島
South Horizons

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1990年代、島の丘を削り小さな湾を埋め立てて造成された高層マンション群「海怡半島(サウスホライズン)」がそのまま駅名に。南丫島を指呼の先に臨むマンション群の街には、子供達の遊ぶ声が響く。沈む夕日はもちろん、満月の夜には海に映る月が美しい。

海怡工貿中心 Horizon Plaza

鴨脷洲にある有名なアウトレットビル。工業ビルの中にはインテリアやファッションをはじめ、日用品、ワイン、おもちゃにベビー用品などのショップが集まる。香港を代表するファッションストアの「レーン・クローフォード」や「ジョイス」のウェアハウス、その他、「マックス・マーラ」「HUGO BOSS」など有名ブランドをはじめ、約800のブランドが扱われており、買い物好きな観光客や奥様方には魅力満載のスポットだ。その中でもオススメは200以上のブランドを扱うレーン・クローフォード。通常の20%から50%オフの値段で売られており、季節や品物によって最高90%オフの商品も。最上階には木の温もりを感じられる家具やインテリアを扱う店の奥には買い物の間の休憩に最適なお洒落なカフェも併設されている。2階の家具店「SHAMBARA」の中には香港でお馴染みのカフェ「PacificCoffee」が。コーヒーを飲みながらユニークな家具や雑貨をチェックできる。

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最初にロビーで各階にある店をチェックし、ショッピングリストをもらって目当ての店の確認するのを忘れずに。エレベーター待ちに時間がかかるので最上階まで昇り、階段で回ると効率的だ。さあ、あなたも掘り出し物を探しに行こう。

住所:21F, Horizon Plaza, 2 Lee Wing St., Ap Lei Chau
電話:(852)2814-8313
時間:10:00~19:00 年中無休

 

人気ブランドの穴場的アウトレット

新しく開設されたMTR海怡半島駅の程近くに、PRADA、MIUMIU、HELMUT LANGなどをはじめ、人気ブランドが揃う話題のアウトレットショップがある。メンズもレディーズも充実した品揃えで、観光客のみならず在港日本人も多く通う。閑静な住宅地の中にあり、これまではバスやタクシーのみでのアクセスだったがMTRの開通で格段に行きやすくなった。セール時期の7~8月頃やクリスマス前から正月頃には70%オフの商品も出てくるので要チェック。憧れのハイブランドの掘り出し物をお得に手に入れよう。

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『Space』(PRADA、muimui アウトレット)
住所:2/F, East Commercial Block,Marina Square, South Horizons, AP Lei Chau (海怡東商場(Marina Square East Centre)内)
時間:10:30~19:30(日曜、祝日は12:00~19:00)

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