特集:モノ作りの現場 工場を訪ねて 3

2016/11/08

ビジネスコンサルティング副総経理・佐伯さんにインタビュー
工場現場で何が求められる?中国エンジニア事情と中国生活21年のビジネス処世術とは

 

佐伯裕子氏

〈佐伯裕子氏プロフィール〉
1995年に北京の大学に2年間留学。1997年から東莞、深圳の3社の日系メーカー企業に勤め、2012年からは広州正銘ビジネスコンサルティング会社を経営。人事労務・通関の業務をメインにコンサルティング業務全般を幅広くうけもつ。

現在の中国エンジニア人材はどのような状況ですか?
需要がある分野は工場の自動化の技術者です。工場の生産ライン自動化を検討している企業が増加しているので、そのノウハウをもっているエンジニアが、中国の大手企業に人気があります。特に、日本の大手で技術者として勤め、定年退職した人材は中国企業から取り合いになっています。雇用の待遇はかなり高い水準ですが、短期での契約になることがほとんどです。それでも、契約を結ぶ人が多いのが現状です。その他の分野ではマッチングの難しさがネックとなり、求職者が適切な会社に就職できない問題があります。

中国で、エンジニア職に求められることは?
第一に柔軟性です。中国と一口に言っても、それぞれの地域では異なる文化があります。職場では一人ひとりと向き合い、彼らの考えを受け入れることが大切です。日本的な風習を、彼らに押し付けるのではなく、どのようなアプローチが最適なのかを、日々考えることが重要です。次に、日本的な阿吽の呼吸を捨てることです。指示内容は具体的に、例えば「できるだけ早く」を「明日の夜6時」にする。また、伝達内容を復唱させて、理解したのかその場で確認する。すると、「言ったのにやっていない!」という齟齬が解消されます。

中国で実際に働く難しさとは?
私自身十年以上中国人の方と働き、彼らと深く関わりながら、少しずつその答えが見えてきました。日系メーカーに在職していた時は、部下へうまく業務が進まない怒りをぶつけていましたが、当時仲の良い従業員に『管理職は、落ち着いてどっしりと構えていた方が良い』と言われ、その客観的な視点に反省をさせられました。感情的になっている時の発言や思考は、ロジカルではなくなりがちです。先日90年代初めに中国へ旅行した時の日記を見つけました。ページをめくると「3A」という言葉が目に止まりました。その3つとは、慌てない・焦らない・頭にこないです。今ではこの「3A」の大切さが痛いほどわかり、それを自然に受け入れる自分がいます。

最後に、中国で求められる人材とは?

工場現場

生産管理や購買の求人は、減少傾向にあり、中国語能力のある若手の営業職は求人がありましたが、11月1日に中国の一部地域で試行的に開始された、『外国人来華工作管理服務システム』が、今後中国での新規外国人の採用に影響を与えるはずです。就業許可書の申請は、このシステムが年齢、学歴、勤務年数、中国語のスキル、給与水準をポイントで自動的に判断し採点するからです。今後は、専門的な能力あり、給与水準の高く、ある程度中国語のレベルもないと就労することが難しいでしょう。

正銘ビジネスコンサルティングGr.
経営リスクの最小化と、企業利益の最大化に貢献という理念のもと、幅広いコンサルティングサービスに取り組む。案件契約数は累計300社以上の実績があり、華南地区対日系企業コンサル実績No.1の豊富な事例情報を保有。

〈広州オフィス〉
住所:広州市天河区体育東路羊城国際商務貿易中心西塔2414
電話:(86)20-3829-6380

〈深圳オフィス〉
住所:深圳市福田区深南大道与香蜜湖路交界西北陽光高尔夫大厦1610-1612
電話:(86)20-3829-6380

 

 

チャイナプラスワン
ベトナム製造業の今

8年前にベトナムに渡り、日本企業進出支援の会社を経営する西田俊哉氏に、ベトナムの製造業の今を伺った。

西田俊哉氏

〈西田俊哉氏プロフィール〉
8年前に事業立ち上げの為にベトナムへ渡り、日本企業進出支援の会社を立ち上げる。進出時には不動産の決定が必要なことから、「レタントン不動産」として賃貸事業も手がけ、きめ細やかなサービスで多くの日系進出企業に信頼を得る。その進出のノウハウを元に多くの日系視察企業に対して進出の際の問題点やベトナム法律の裏話など講演を実施。現場で抱える諸問題などのアドバイス等で評判を呼ぶ。

チャイナプラスワンの影響で、ベトナムへの投資が増えていると聞きますが、製造業(日本企業)の現状を教えてください。
チャイナプラスワンといわれる現象は、何に起因にしているかを考察することが大切だと思います。かつて日本企業にとって、中国は膨大な人口と安い人件費によって、生産を移転する最適な場所でした。ところが製造拠点が中国のみとなる一国集中のリスクが顕在化してきました。地政学的リスクに留まらず、人件費の上昇、知的財産の流出、食品衛生上の問題発生などから、近隣の地域に分散投資をすることで企業経営の安定化を図る傾向になってきたことが理由だと思います。

その点でいえば、ベトナムは多くの面でチャイナプラスワンとして選択される要素があります。最も大きな要素は、人件費の安さです。中国の半分程度の賃金で労働力が供給できます。更にその労働力は質の面でも評価が高いのが特徴です。日本企業の進出先として選ばれる理由はそこにあります。

現実に次のような動きがあります。中国を完全撤退しないまでも、リスク回避のための分散投資先として、ベトナムを選択する大企業が増えつつあります。その大企業の移転に伴い、下請け企業のベトナム進出も進み始めています。現在ベトナムへ進出する企業は、日本からの直接進出よりも、第三国(主に中国)からの移転が多いように思います。

日本企業が進出する上で、海外ならではの大変さはどんなことでしょうか。
海外に進出する日本企業にとって課題はいくつかあると思います。特にベトナムの課題は次のように考えています。労働力の質がいいというものの中間管理する立場の人材が不足しています。同時に管理の手法が教育されていません。その部分にまで、日本人管理者の指導が必要になり、日本人の役割が非常に幅広くなっています。少数ではまかなえないので、日本人を単に増やすとコストアップになり、利益を生み出すことができません。

また、ベトナムの経済基盤が脆弱な面も問題です。インフラの未整備、裾野産業・素材産業の未成熟の問題です。インフラの不足は高付加価値の製造物の生産ができないことに直結します。また、裾野・素材産業の未成熟は、原材料の調達を輸入に頼らざるを得ないことになり、それもコストアップに繋がります。資本主義経済の導入が遅れたベトナムの弱点は、まだまだ克服されているとは言えません。

今後ベトナムの製造業はどのように発展していくと考えられますか。
ベトナムの優位性である人件費の安さは、徐々に優位とも言えない方向に進むものと思います。そのため安い人件費に立脚した労働集約型の製造業は、賃金のもっと安い国に移動することは避けられないでしょう。

その反面、付加価値の高い製造業や装置産業の進出が増えていく傾向が鮮明になってくると思います。現状でも携帯電話や半導体の外資系エレクトロニクス企業がベトナムに製造拠点を移し、ベトナムの経常収支の黒字に貢献しています。高付加価値の製造業の成長が、経常収支の黒字化に貢献し、それによって物価の安定、経済の安定に寄与していることから、ベトナムは高付加価値を生む製造業の誘致を加速させていくことになるでしょう。

i-Craft JPN VN JSC
複数のライセンスを取得しており、人材紹介から営業支援、輸出入・貿易から不動産仲介、会計経理・税務、マーケティングのお手伝いまで幅広く対応でき、ベトナム進出のための視察サポート、通訳派遣、資料の翻訳、市場調査など、進出前のサポートもしている。また、工場・事務所・店舗、駐在者向けサービスアパートなどの用地取得・建設・賃貸なども行っている。

〈ベトナムオフィス〉
住所:23 Ton Duc Thang, Dist., HCMC, Vietnam
電話:(84)8-3824-3288
ウェブ:www.vn.icraft.jpn.com

〈本社〉
アイクラフト株式会社
代表取締役 山本裕計
住所:神戸市中央区京町83番地 三宮センチュリービル

 

 

かつての香港「工業地帯」

現在ではアジアの金融都市という印象が強い香港だが、この街の発展を支えて来たのは「ホンコン・フラワー」に代表される製造業でもあった。香港のあちこちに存在する、かつての工業地帯を改めて見てみよう。

工業地帯

工業ビル

香九龍湾は旧啓徳空港に近い立地から、物流会社の倉庫が多く軒を連ねていた。空港閉鎖後は、日系の貨物利用運送事業会社を中心に、荃湾、葵涌などの地域へ移転した会社も多い。香港政府機関が多く存在し、香港全土のエレベーター、エスカレーターの点検、許認可権を持つ「機電工程署」の本部や「香港輔警総部」などがある。また、広い土地を利用した地下鉄
やバスの車庫があり、交通基地としての役割も果たしている。

工業地帯

工業ビル

かつては田園地帯であり、農業や漁業が盛んだったが、戦後間もなく重工業が発展するとともに工業地帯となった。中でも有名なのは、コンテナの海上輸送と陸上輸送の結節点となる港湾施設、葵涌コンテナターミナルだ。香港の3大ターミナルのひとつで、全体取扱量の70%を占める貿易の中心地である。MTR東涌線の車内からも工業地帯を眺めることができるが、一種多様な建物の谷間をバスに乗って巡るのもお薦めだ。

工業地帯

工業ビル

やはり旧啓徳空港に近かった觀塘地区は香港において最大の工業地区として栄えた。MTR觀塘駅の海側には、多くの工業ビルが立ち並び、かつては工場で働く人で賑わっていた。90年代以降、伝統的な製造業の拠点が中国に移ったのをきっかけに空きビルが増加したが、近年では工業ビルを改装したオフィス化や、若手アーティストのギャラリー、レストランの進出も多く、古い顔と新しい顔、両方の側面を垣間見ることができる。

工業地帯

工業ビル

香港政府は戦後、中国からの多くの移民の受け入れ先として、柴湾に工業地帯を設立した。多くの工場、住居が建てられ、
1968年には柴湾の人口が8万人に達し、香港島における最大の工業地帯として発展した。柴湾はMTR港島線の東の起終点に位置し、工業ビルは駅前及び海岸沿いに密集している。工場通勤者の需要が高い、観塘方面へ行く赤いミニバスの停留所が多く設置されているのも特徴だ。

 

今、急速に進む工業ビルの再活性化

工業ビル

製造業が香港の経済を支える屋台骨でなくなった今、工業ビルは時代に取り残された存在となっていたが、香港政府は2009年10月に再利用や再開発を目的とした工業ビルの再活性化策を発表した。工業ビルを買収する場合、地目変更で必要となる費用が免除になることや、80%以上の区分所有権の所得で良しとするなど、企業にとって有利な条件を打ち出した。結果、現在までに約150件の申請があり、空きビルが多かった九龍東エリアは、オフィスやアトリエ、レストラン、商店、ホテルなどに生まれ変わっている。近年、香港の中心地における不動産価格の高騰が続く一方で、今後ますます九龍東エリアへの移転、進出による工業ビルの再活性化に期待したい。

 

 

 PPWはこうして出来る!印刷工場リポート

印刷工場

毎週お届けしているこの「PPW」は、実は私たちのオフィスで印刷しているのではない。香港島南部、香港仔(アバディーン)に隣接する工業エリア・黄竹坑(ウォンチョックハーン)の印刷工場でPPWができあがる行程を、Fantasy Printing Ltd.のPPW担当営業、ピーター・ウォンさんの案内でのぞいてみよう。

印刷工場

PPWに使われるコート紙が裁断され 印刷を待つ

印刷工場

印刷工場

一般的なカラー印刷はシアン(青)、マゼンタ(赤)、イエロー(黄)、キー・プレート(黒)という、4色の「掛け合わせ」で出来ている。PPW編集部からFTPサーバに送られたデータから、4つの色の刷版が作られ、印刷機にセットされる

印刷工場

刷り出された色をチェックしながら色調を調整していく

印刷工場

印刷されたインクが乾くまで、約半日かかる。

印刷工場

印刷工場

インクが乾いたあと、最後の「折り」行程へ。ページの順序通りバインドされ、完成していく

印刷工場

完成したPPWは配送会社へ搬送。その後香港の各配布ポイントに配送され、読者の皆さんの手元に届く

ピーター・ウォンさん

ピーター・ウォンさん

印刷の多くの工程は機械化されており、現在、印刷にかかる人数は延べ5人です。また、データのデジタル化によって、10年前と比べると「色校正」にかかる時間がぐっと短縮されました。これからもクオリティーの高い印刷で美しいPPWをお届けして行きます。

Pocket
LINEで送る