“笑う”の定義とは?意外と知らない笑顔の話

2017/11/21

今日、「笑顔」のイメージは世の中のあちこちにありふれ、常に笑っている人は、より好感が持てて有能で親しみすく、親切で魅力的であると考えられる傾向がある。

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しかし、笑顔の裏に隠された真実は案外不気味なものだ。約19種のパターンがあるという笑顔のうち、私たちが楽しい時間を過ごしている時のものは、わずか6つしか無く、残りは苦痛、羞恥心、不快感、恐怖、悲壮感を感じる時に出るもので、嘘や迷い、軽蔑や怒り、不信感を意味することさえもある。

1924年、米国ミネソタ大学のカーニー・ランディス博士は、全ての人間が嫌悪感、衝撃、喜びといった感情に対し同じ表情をするかどうかを調べる実験を行った。被験者は強い反応を示すような刺激(アンモニアの臭いを嗅ぐ、ポルノ写真を見る、カエルの入っているバケツに手を突っ込む等)が与えられ、その表情が撮影された。テストの最終段階で参加者は生きているネズミを見せられ、首をはねるように指示された。実験方法としては非倫理的だったが、結果として「人はある状況下で上の人物から指示されると、普段しないことでも平然としてしまう」ということが判明し、被験者の大半が泣いたり怒ったりすることではなく、笑顔だったという。

ウィスコンシン大学の心理学者、ポーラ・ニデントール氏は“笑顔の多くは、私たちがルールを守っていることを示す丁寧なジェスチャーです。しかしそれらは、他人を操作したり、本当の気持ちから気を散らしたりする効果的な手段にもなりえます。たいていその場合、笑顔は幸福の普遍的なシンボルや仮面として使われるのです。”と語る。

19世紀の神経学者、デュシェンヌは、笑顔の多目的な表現を解読することに取り組んだ。彼は顔の筋肉が表情にどう作用するのか興味があり、研究のために人の顔に電極を取り付け、筋肉を刺激して動かすことを思いついた。その手順は苦痛を伴うため、当初彼は切断された革命家達の頭でしか実験を行えなかったが、ある日偶然パリの病院で出会った、顔の感覚が無い中年男性に実験を行うことに成功。顔面筋郡の作り出す60の表情を発見し、写真を残した。中でも有名なのが、この不運な男が顔を横に広くゆがめて笑っているものだ。頬が上がって目元に笑いじわが浮かび、人工的に作られた笑顔とは思えないほどに幸せそうに見える。この実験で笑顔はたった2つの筋肉の収縮作用から成り、頬にある頬骨の主要部分が口の角に引っ張られ、かつ目を囲む眼窩輪が頬を引き上げることで、特徴的な“笑い目”ができることが分かった。
面白いのが、“真の笑顔”に笑いじわの存在を必要としないという地域も世界にはあるということだ。笑顔への衝動は普遍的かもしれないが、それが受け入れられるとき、そしてそれがどのように解釈されるかは文化的ルールに依存する。

例えば、“力の無い笑顔”という存在だ。かつて幸せな笑顔は、現代のように常に歓迎されるものでなかった。17世紀のヨーロッパでは、感情を公然と表に出すのは非常に不適切とされ、貧しい人々だけが歯を見せて微笑んでいた。貴族達が心からの笑顔を浮かべられるようになったのはそれから1世紀も経ってからであり、“笑顔の革命”が起こらなかったロシアでは未だに“理由なく笑顔でいる人は怠惰である”ということわざがあるし、ノルウェー政府の発行するリーフレットには笑い続けている見知らぬ人を見たらその人は酔っぱらいや狂人、またはアメリカ人であるかだ、と書かれている。また逆に東アジアの文化では、社会的調和を維持するために、否定的な感情を笑顔で隠すことがよくあるという。

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“真の笑顔”は現代で自然に形成されてきたように見えるかもしれないが、幸せとは違う感情から進化したかもしれないと言う科学者もいる。「ボノボのチンパンジーは目上のチンパンジーなどに恐れを感じると、歯を露出させ、唇を引き戻して笑顔に似た表情を作ります。いわゆる“服従の表情”です。」と、バーミンガム大学の霊長類学者、ZannaClay氏は言う。

ダーウィンも、実用的な機能を果たすために本能的に表情が進化した、と仮定した。例えば、驚いて眉毛が上がると視界が広くなり、祖先が捕食者による捕獲を免れるのを助け、チンパンジーの服従の笑顔は歯が固定されることで相手に噛む意志が無いことを伝える可能性がある。現代の私達はというと、恐怖を感じて笑顔になることは無いものの、乳児は幸せだったり苦しんでいる時に、男性は目上の人の傍にいる時により頻繁に笑うというデータがある。

その他にも、頭を下にし、わずかに左に動かす“照れ笑い”、下唇をわずかに上げて少々頭を下向き、又は横向きに傾け、相手にとって都合の悪い話題を端的に告げる時に出る、“有資格者の笑顔”、嫌悪感と憤慨が混じり合っていることを示し、固く結ばれた口元以外は心からの笑顔に近い“軽蔑の笑顔”、他社の不幸を知った時に現れる、“ざまあみろ”という感情から来る“悪意のある笑顔”、嘘をつく時に出やすい“作り笑い”、オリンピックの決勝戦で敗れた銀メダリストなどに見られる“悲しい笑顔”など、笑顔の種類は実に様々だ。

ちなみに著名な絵画、「モナリザの微笑み」は、心理学者の分析によるとモデルとなった女性は異性と火遊びをしていたと見られ、その儚げな微笑みは、遠くを注視している状況で微笑み、こちらから目をそらす前の照れ笑いを描写したものなのだとか。

 専門家達曰く、大抵の人は笑顔の作り方を多く練習をしており、正直な感情をうまく隠すことも、自発的に輪状窩の内側の部分を収縮させて笑い目を作ることも簡単だという。次に”笑って!”と声をかけられた時、どんな笑顔を浮かべるのか?それはあなたの選択次第だ。

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