最新テクノロジー事例も!【深セン最前線レポート】

2025/03/19

スタートアップの集まる深センから アイデアをカタチにしやすい社会を作る

深センのITを語るうえでこの人以外の逸材が他にいるだろうか。デジタルコンテンツ制作会社チームラボでカタリストとして日本やインドネシア、シンガポールなどで勤務した後、深センへ2017年に移住。現在は株式会社スイッチサイエンスに在籍し、マーケティング・開発・投資などを行う傍ら、イベント講師、コミュニティ運営など多忙な日々を送る、自称「ものづくりオタク」の高須氏。

高須 正和氏 メイカー向けツールの開発・販売をしている株式会社スイッチサイエンスで国際事業開発や投資を行うほか、早稲田大学リサーチファクトリー招聘研究員、ガレージスミダ研究員として活躍。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社KaiYuenShe」唯一の外国人メンバーでもある。 著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)、『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、『世界ハッカースペースガイド』(翔泳社)、『深センの歩き方』(マッハ新書)など多数。 https://note.com/takasu

高須 正和氏
メイカー向けツールの開発・販売をしている株式会社スイッチサイエンスで国際事業開発や投資を行うほか、早稲田大学リサーチファクトリー招聘研究員、ガレージスミダ研究員として活躍。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社KaiYuenShe」唯一の外国人メンバーでもある。
著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)、『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、『世界ハッカースペースガイド』(翔泳社)、『深センの歩き方』(マッハ新書)など多数。
https://note.com/takasu

 

原動力は好奇心
年間のセミナー10本、メイカー向けイベント参加40回と、世界中を飛び回っている高須 正和氏が今回の話し手。メイカーと表現するのはあえて製造業者(メーカー)と差別化するためであり、ここではデジタル技術を用いたものづくりに携わる人たちを指す。

一般的な会社員から、誰もが口を揃えて言う「利益を度外視したIT探究者」へと変わるきっかけは2008年。アメリカMakeマガジン主催のロボット工学、コンピューター、アートの世界的DIYイベント「Maker Faire」へ参加したことで、高須氏の視野は広がった。2014年に開催された「Maker Faire Shenzhen」では、自らスピーカーとして登壇し、革新的な技術や表現についてプレゼンを行った。

「慣れない英語でのスピーチはめちゃくちゃ緊張しましたよ。当時はジャカルタに駐在していたので、英会話の講師と一緒にスピーチを何回も練習しました」と振り返る。今では英語・中国語を巧みに操る彼は、国際的なITイベントの常連であり、世界のテクノロジー企業や団体でコンサルティング業務を委ねられることも多いという。そんな彼に、まずは深センIT事情を自らの言葉で描写してもらった。

マネをしていた都市はやがてシリコンバレーへ
「年代物のロレックスの時計はいつまでも価値がありますが、5年前のスマホは欲しいと思わないですよね? 中国、ひいては深センはスマホのような移り変わりの激しいプロダクト、ムーアの法則(半導体の性能が18カ月で2倍になるという経験則)に影響されるプロダクトと相性のいい都市です。コンピュータを中心とした製造業がベースにあるここでは、アイデアさえあればスピーディーに実行に移しやすいのが特徴。日本を含む諸外国の製品をマネしてきたノウハウが積み重なり、中国独自の製品を作れるようになったことがシリコンバレー都市・深センを作り上げた大きな背景として挙げられます」。
深センは北京・上海・広州含む4大都市の一つで、1980年には中国ではじめて「経済特区」に指定された地域であり、香港に隣接する地理を活かし、外資企業の融資などを頼りに発展してきた。高須氏いわく、「飛行機や自動車のようにエンジンを持つものは、よいものを生産できるまでに何十年単位の時間と労力を要しますよね。中国も自動車を作ってはいますが、主流はEV。業界最大手のBYDが深センから規模を拡大したことは、ある意味当然のことかもしれません。自動車とは反対に、コンピュータにはムーアの法則があるように、短期間で性能がどんどん上がっていくものです。このようにすぐ勉強でき、すぐ結果が出るものに深センは強い場所だったというわけです」。

深センだから柔軟に実験できる
深センといえば、ドローンを使ったフードデリバリーが有名だ。大手食品配達プラットフォーム「メイトゥアン(美団)」が運営する同サービスは、2017年から開発され、22年から段階的に配達ルートの拡大をしてきた。現在では歩行者の頭上をドローンが飛行する風景が日常となっている。
「この大規模なドローン配達の実験は現状、利益化するまでまだまだ道のりが必要であり、このような実験は常に繰り返されていきます。数年前まではドローンを飛ばすたびトランシーバーで人が管理していましたが、今ではアプリで注文すれば、配達キオスクへの到着時刻ぴったりに商品が届くようになった。深センのように高層ビルが建ち並ぶ都市部でドローン飛行が許されるのは、政府とドローン会社が協力して、わかりやすく安心して飛ばせるように管理体制を構築したり、頻繫な法律改正が行われていることが要因としてあるでしょう」と高須氏。
また彼に今後も伸びる分野をきくと「ロボット」と即答。「掃除ロボットや配膳ロボットは有名ですが、これまでなかったシーンにも今後どんどんロボットが登場するでしょう。例えば、定時に病棟を回り、血圧を測ってくれるロボットは、労働力不足の深刻な医療業界では喉から手が出るほど欲しいものです。また僕の友人が開発した中華鍋を振る調理ロボットは、現在シンガポールや香港で売り上げが急増しています。期待が難しい労働力の代替えとしての巨額の投資に、企業はもう驚かない時代がやってきています」と語る。

デジタルものづくりをさらに発展させたい
現在、事業開発・研究員・コミュニティ運営・執筆活動など多角的に活躍する高須氏。今後の目標をうかがうと「もっと発明家が増えるような世の中にしたいと思います。工学部のごく一部の人間しか発明家になれなかったような昔に対し、どんな人でも気軽にものを作れる生成AIなどの技術がたくさん出てきている。このようにアイデアを実際のカタチにする道具を作る・広めるのが僕の仕事だと思っています」と答えてくれた。

深セン市福田区の公園にて掃除ロボを撮影

深セン市福田区の公園にて掃除ロボを撮影

早稲田の創造理工学部で講演

早稲田の創造理工学部で講演

日本でも大人気のAI-IoT開発ツール深圳M5StackのCEOと

日本でも大人気のAI-IoT開発ツール深圳M5StackのCEOと

 

 

深圳テクノロジー事例

本ページでは、深圳の最新テクノロジーの中でも特に高須氏が今後も期待するという事例をいくつかご紹介。目利きの彼が選ぶ、将来的に進歩を臨むことのできる商品は何なのか。これらの技術が深センからやがて世界へ波及する日は、そう遠くないのかもしれない。

自動化が難しい中華料理に取り組む調理ロボットT-Chef
「世界中に中華料理屋はあるのに、なぜチェーン店はアメリカや日本ばかりなんだ?中華料理はもっと標準化できるはずだ」そんな疑問をもとに、耿凱平(現T-chef Technology Co.,Ltd.智谷天厨科技有限公司)CEOが開発した調理ロボットT-Chef。同社は2023年に年間5000万元の売り上げを記録し、ここ数年は年間3~4倍と急成長のスタートアップだ。主力製品はスマート調理ロボットで、一台につき複数の料理をその場で調理することができ、同時に3~4台のロボットを扱うことで、100人規模の顧客に対して、複数のメニューを短時間で提供することができる。中華料理は、作り置きや温め直しには向いていない。炒め物が多く、かつそれぞれの炒め物は最初に油を温めるところから、鍋に入れる材料の順番、火力と炒め方の調整、調味料を入れる順番とタイミングがどれも重要で、しくじると味が大きく変わってしまう。このようなメカニカルな工夫や、温度・プロセスの管理を担っているのがAIというわけ。
T-Chefのロボットが本格販売後、最初にヒットしたのは香港やシンガポールなど、海外の中華料理チェーンだという。特に香港の有名チェーン「大家楽(Café de Coral)」は発売開始時期からの大手クライアントだ。今後も省力化とクオリティ向上を両立させるロボット企業は増えていく見込み。

スタートアップ7

T-chef Technology Co., Ltd. 耿凱平CEO

T-chef Technology Co., Ltd. 耿凱平CEO

中国の「低空経済」の実情とドローンビジネス
低空経済とは、1000m以下(目的によっては3000m以下)の空域をドローンやeVTOL(電動垂直離着陸機)による様々なサービス、旅客輸送や宅配便などに活用しようというものだ。中国政府傘下の迪研究院(CCID)が発表した「中国低空経済発展研究報告(2024年)」によると、2023年の低空経済規模は5059.5億元(1元20.47円として1兆356.8億円)になる見込みで、年間30%以上の成長をみせていることから、日本をはじめ世界でも注目されはじめている。

写真は高層ビルが林立するにぎやかな市街地で、黄色と黒の美団ドローンが、通り沿いの受け取り専用キオスクに降下するシーン。市民たちにしてみれば日常でよく見かける光景だ。2022年より本格的に一般向けにサービスを開始し、いまだ試験的な側面は否めないものの、市民のデリバリーツールとして活用されている。

使用する側にもいくつかの規定が存在する。その一例として、空域管理マップがある。目視できない範囲まで飛行するようなドローンは、操作やファームウェア・アップデートのためにスマホアプリと接続する構造になっているが、そのアプリには自動で飛行可能エリア・禁止エリアなどが表示される。高度制限などもドローンに反映され、禁止区域でのフライトや制限高度を超えるような飛行はできないようになっている。

深センでは毎年世界ドローン会議というカンファレンスを開催。それにともない法整備もかなりの勢いですすんでいる。今後も多様なサービスが世に発表される日が待ち遠しい限りだ。

ドローン

スマホいらず手のひら決済
外出の際、お財布を忘れても決済アプリ装着済みのスマホさえあればなんとかなる昨今。では、スマホを忘れた場合やバッテリー切れの時はどうだろうか?
3年前から試運転を開始し、現在では深センの7-11ほか一部のコンビニエンスストアなどで利用可能な「WeChat Pay手のひら決済(微信刷掌支付)」が画期的すぎる。登録はどうやって? 本当に安全なの? そんな疑問を一つ一つ解決していこう。
まず登録は非常にシンプルなもので、7-11店舗内の登録機器からWeChat Payをスキャンし、手のひらをかざせば完了だ。安全面では、指紋だけでなく手相を読み取り、毛細血管の通り道をも個人データとして落とし込みを行う。このデータは盗用が不可能で、防犯面でも高い技術力でカバーしている。
人々の衛生意識が高まった昨今では、指紋認証を嫌う人も多く、その点、手のひら決済ならば機器に直接触れることなくスキャンができる。いいことづくしのこの技術、実は2020年にアメリカ・アマゾンで始まったもの。さすがはコピーの都市・深セン、画期的なものは普及のスピードも速い。ただひとつネックなのが、導入店舗数が限られていること。「慣れてしまった通常通りのWeChat Payスキャン決済から、わざわざ7-11のためだけに手のひら決済にスイッチする人はまだまだ少ない」と
高須氏。しかし「日常生活で実験的に少しずつ普及させることは、テクノロジー界では必要なこと。ドローン配送同様、一般の人が試せる形で実社会で実験をするのはとても意味があると思います」と同技術に対する期待をみせる。

スタートアップ6

スタートアップ5

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