マルチリンガル教育のその先「本帰国して見えた、わが家の想定外」Vol.1

2026/03/31

香港で子育てをしている、あるいはこれから子育てを予定している駐在員の方のなかには、「この恵まれた環境で複数の言語に触れさせれば、帰国後にも何らかのプラスになるのでは」と考え、多言語教育を行う学校を選択肢に入れている家庭もあるのではないだろうか。

香港で日本人駐在員の家族のもとに生まれ、4言語を学ぶ幼稚園を卒業後、小学校入学のタイミングで本帰国したわが子。その語学力の変化を、ひとつの事例として紹介する。子供たち

香港人が主に使う広東語、公立校では必須科目として高いレベルが求められる中国語の普通話、そしてイギリス統治時代に定着した英語。これら3言語を公用語とする香港には、世界各国からの移住者も多く、日常のさまざまな場面で複数の言語が飛び交っている。こうした環境だからか、香港人には“言語好き”が多い。「アニメを見て覚えた」と日本語を流暢に話す人もいれば、「いろんな国で使われているから、とりあえず勉強してみた」とスペイン語を操る人もいる。6〜7言語を当たり前のように使いこなす人に出会うことも、決してめずらしくない。

そんな背景もあり、香港では多くの学校でごく自然に多言語教育が行われている。息子が3歳から通った幼稚園もそのひとつだ。担任は、広東語を教える香港人と、英語を教えるイギリス人の2人体制。加えて普通話と日本語のネイティブ講師が在籍しており、香港の中でも比較的言語教育に力を入れている園だった。とはいえ、わが家が進学校を求めていたわけではない。自宅から歩いて通える距離にあり、日本人の先生がいる。選んだ理由はそれだけだった。

日本人先生

では、毎日4言語に囲まれて過ごした息子は、2年半後の卒園時点で、それぞれの言語をどの程度身につけられたのか。まず、母語である日本語。自宅では日常的に使用し、幼稚園でも日本人の先生が読み書きを教えてくれていたため、特別なサポートが必要だと感じることはなかった。

次に広東語。いわゆるローカル系インター校で大半の園児が香港人だったことや、担任のひとりが広東語で指導してくれていたこともあり、簡単な日常会話であれば理解できるようになっていた。実際、街で見知らぬおじいさんに広東語で話しかけられていたことがあり、何を言われたのか後で聞いてみたところ、「日影にいるんだね、暑いもんねって言ってたよ」と教えてくれたこともあった。

英語については、日本人以外の友だちには英語で話しかけていたし、もうひとりのイギリス人担任によるレッスンのおかげで、簡単な文章であれば自分で読めるようになっていた。

そして普通話。中国人の非常勤講師のもと、孔子の論語を暗唱するなど毎日音読に取り組んでいたようだ。単語が少し理解できる程度だったが、発音の良さを評価され、スピーチコンテストの代表者に選ばれた。その後、香港中の幼稚園からの選抜を勝ち抜き、日本人としては唯一、決勝大会に出場した。

——と、ここまでが6歳時点での話。さて本帰国後、公立小学校に通い始め、各言語に対して特別なサポートを受けることなく1年を過ごした彼はどうなったか。

(次回へつづく)


著者:菅原 悠
建築学科を卒業後、住宅設備メーカーにて研究開発職に従事。2013年に来港し、2児を育てる傍ら編集ライターを務める。11年間の香港生活を経て、2024年に帰国。現在は事業者向け住宅専門誌にて取材記者として活動中。日本語教育能力検定試験資格を持つ。

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