中国の歴史・法律の軌跡をたどるマニアック探訪「中国法院博物館」

2025/04/30

スクリーンショット (2544)中国近代史は、現代中国につながる重要な歴史といえる。この中国近代史の中でも、法制史につながる部分を中国を知りつくした著者が、日本人が踏み込まないようなマニアックな地を訪れ、近代法制史を振り返る旅行記。

中国法院博物館
中国・北京市には「中国法院博物館」という裁判所に関する博物館があるのをご存知でしょうか。中国法院博物館は、中国の最高人民法院が主催する博物館で、2016年1月6日から広く一般に公開されました。中国法院博物館は、中国の最高人民法院の向かいにあり、もともとは日本の横浜正金銀行の北京支店のビルであった建物を利用しています。
その展示は、現代中華人民共和国の裁判はもちろんのこと、古代中国の法に関する展示などさまざまで、中国法制史に興味がある方なら、全ての展示について楽しめる場所です。特に古代法のコーナーには、古代中国の影響の伝播も展示してあります。唐時代の「唐律」が日本に伝わり、西暦701年に日本で最初の体系的な「法」である「大宝律令」起草の際に参考とされたことは日本の中学の歴史でも習うことです。しかし、この博物館の展示によると、「唐律」が影響を与えたのは「大宝律令」だけでなく、朝鮮半島の「高麗律」にも影響があるそうです。
また、この博物館は、現代中国が建設したものなので、当然、その展示は中華人民共和国につながる歴史が最もその展示量が多くなっています。特に、現代中国の民事裁判の在り方を決定づけた「馬錫五(ま・しゃくご)」などの展示は中国近代法制史を学んだことがある人には強い興味を持たせるでしょう(馬錫五について知らない方は、軽くネットで検索してみてください)。特に、馬錫五などが活躍していた時代(中華人民共和国建国初期もしくは中華民国末期)の裁判の判決書の原文(複製の可能性もあります)が多数展示されているのはもう圧巻の一言です。現在は、判決文などはウェブサイトで公開され、簡単にきれいな字で読めますが、墨と筆で書かれた判決文には、判決の内容だけでなく、判決を一字一字書いて、人を裁いた当時の裁判官の熱を感じます。
ところで、そんなに堅い展示ばかりでなく、自身の全身をディスプレイに写し、それに中国の法服(裁判官の衣装)を合成して自身が裁判官になったかのような姿を楽しめるコーナーなど、子ども向けのコーナーもあります。そのため、中国法から見る中国史に興味のある方は、子連れで行っても十分楽しめる施設だと言えます。

所在地:北京市東城区正義路4号
開館時間:月曜日休館、9:00~16:00
ウェブ:www.courtmuseum.cn


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学アジア地域研究所特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら、講演活動などもしている。韓国・壇国大学校、東アジア人文融複合研究所、海外研究諮問委員や市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて「高橋孝治の中国法教室」連載中。

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