スポーツクライミング!香港人プロクライマー「游嘉俊」

2025/04/16

クライミングがなければ、今の僕はない。 スポーツクライマー 游嘉俊

その一挙手一投足を祈るように見つめる観衆の視線を背中に浴びながら、頭上のホールドを睨み、軽々しく飛ぶように登っていく。それもとても人間業とはいえないようなスピードで。
無駄な脂肪のない鍛え上げられたその肉体はまさに、クライミングのために生まれてきたかのようだ。

image (3)

游嘉俊(Nathan Yau) 1992年香港生まれ。2015年全国チャンピオンカップ優勝、2018年アジアカップ優勝など輝かしいレコードを持つ。趣味は映画鑑賞。

游嘉俊(Nathan Yau)
1992年香港生まれ。2015年全国チャンピオンカップ優勝、2018年アジアカップ優勝など輝かしいレコードを持つ。趣味は映画鑑賞。

 

「游嘉俊(Nathan Yau、以下Nathan選手)は今年33歳、香港の新界で生まれ育った。「ロッククライミングに出会っていなかったら、僕は今頃ファストフード店の店員だったでしょう」と話すほど、彼の人生を変えたこのスポーツ。2020東京五輪で初の公式種目となったことは人々の記憶に新しい。この競技についてあまり詳しくないという方のために、ルールを説明しよう。

 

「スポーツクライミング」とは?
自然の岩場を道具に頼らず自身の手足だけで登る「フリークライミング」が時代とともに進化していく中で、純粋にスポーツ性が強調され、競技としてのスポーツクライミングが確立された。選手は「ルートセッター」が人工壁に配置したカラフルな「ホールド」を手がかり、足がかりとして、素手とクライミングシューズのみで壁に挑む。種目によって安全確保のためのロープなどを装着するが、登るための道具の使用は許されない。
どれだけ速く登れたかを競う「スピード」、課題をいくつ登り切れたかを競う「ボルダリング」、どこまで高く登れたかを競う「リード」の3種目があり、東京五輪ではこれらを1人で行う複合(コンバインド)でメダルが争われた。

image

 

転機は2015年に突然訪れた
話をNathan選手に戻すと、学校の成績が思わしくなく、授業をさぼりがちだったという中学時代、近所のコミュニティの中でクライミングに誘われたことがこのスポーツとの初めての出会いだった。最初の頃は単なる趣味の一貫で練習に参加し、一方では生活のためにアルバイトを続けること7年。下積み中はクライミングで築き上げた身軽さを生かし、コンサート会場の裏方として舞台装置を組み立てることなどに従事した。
そんな彼に転機が訪れたのは2015年全国(中国)チャンピオンカップのボルダリングで金メダルを獲得した時のこと。以降、政府やスポンサーからの援助を得て、プロのクライマーになった。

 

試される思考力・忍耐力・冷静心
彼は言う。「クライミングはゲームが始まるまでホールドの配置がわからないんです。なので、スピーディーにコースを考え、行動に移すという冷静さがとても大事。ゲームの度に、毎回新鮮さやスリルを味わえることがこの競技の醍醐味だと思います」。
競技中にはいろいろな感情に襲われると言う。観客の歓声、登れないのではという不安、負けたらどうしようという焦り、それらと闘いながら一つひとつの歩を進めていく。
そんな彼にある悲劇が訪れたのは2018年のこと。タイで行われるアジアカップ直前の練習中に膝を痛めてしまった。「焦りましたよ、目の前が真っ暗になるってこういうことなのかって。幸いリハビリでなんとかごまかすことができましたが、この怪我は今でも完治していないですね」。そのような出来事をくつがえすように、アジアカップ(ボルダリング部門)では表彰台の中央に立ち、満面の笑顔で大きなトロフィーを手にしたNathan選手。逆境をもその強さと忍耐力で乗り越える、まさに努力の人なのだ。

image (1)

 

子どもたちに教えたい
さて、自身のトレーニング以外の時間はコーチとして活躍している彼。東京五輪で注目され、パリ五輪で認知度がさらに上がった同競技を、香港の教育機関も課外活動としてカリキュラムに取り入れたり、クライミング専門の施設を少しずつ増やしているそうだ。学生への指導の中でNathan選手は「思考力・冷静さ・体力を養えるこの競技は、成長期の子どもたちに非常にいいスポーツ。4歳から始めることができますが、どんなスポーツでもそうだけど、子どもの興味があるかどうかは大事なポイント」と話す。
目下の目標は今年11月に行なわれる全国運動会だ。「これが終われば選手活動をリタイアすることを考えています。けれどクライミングは僕の命。今後もコーチとして、多くの人に良さを伝えていきたい。経験したことがない方にも、体験してもらいたいですね」と話してくれた。

Nathan選手のインタビュー動画はYouTube「PPW新聞」へ!
インタビュー動画はこちら

Pocket
LINEで送る