【英語力キープの秘訣】帰国後のアプローチ
せっかく身につけた英語力が帰国と同時に失われてしまうのは惜しい。しかしどうやって保持させていくべきか、香港で子どもを学校に通わせている親御さんのなかには、帰国後の英語力低下を気に掛けている方も多いのではないだろうか。帰国生のための外国語保持教室を日本で初めて開設した「海外子女教育振興財団(以下JOES)」に、英語力キープの秘訣について伺った。
そもそも帰国生が英語を保持し続けるというのは難しいことなのでしょうか。
求められる言語にシフトしていくことはとても自然なことです。帰国後の英語の保持というのはその自然な現象に抗うことになるので、簡単なことではないと言われています。ただ、第二言語の忘却メカニズムは科学的にも明らかになってきていますので、その仕組みに沿って対応していけば、言語の保持、あるいはそこからさらに伸ばしていくということも可能です。当財団でも言語学の専門家とともに学びの場を提供しています。
英語保持にもロジックが必要なんですね。
そうですね。まず、英語には「読む」「書く」「聞く」「話す」という4技能がありますが、すぐに失われてしまうものと保持しやすいものがあるんです。「書く」「話す」というアウトプットの技能は衰えやすいのですが、逆に、「読む」「聞く」という技能は比較的保持しやすいと言われており、身につけた英語をキープさせるにはそこに力を入れることがとても大切なんです。
具体的には何をすればいいのでしょう?
良質な英語をできるだけたくさんインプットするというのが重要なのですが、特に我々は読む力に重きを置いています。保持教室に通われているお子さんのなかでも、英語力を保持・向上させているのは、やはりリーディングが好きな子なんですよね。帰国後もぜひ英語の本を読む時間をたくさん作っていただきたいと思います。そしてもうひとつ、とても大切なことは、モチベーションの維持です。一旦忘れてしまうと苦手意識を抱きやすく、その後の英語力も伸びにくいのではないかと思います。
帰国時の年齢によっても、学習の仕方は変わってくるのでしょうか?
先ほどお伝えしたように、大前提としてたくさん読書をするというのが年齢に関わらず重要なことです。ただ、特に小学校低学年までに帰国された場合は、読み書きがまだ十分ではないお子さんが多いですよね。英語で楽しく話したり聞いたりすることも大事なんですが、小さいお子さんほど読み書き学習の積み重ねが必要になってくるかと思います。
高学年以上で帰国されたお子さんであれば、加えてアウトプットの機会を与えてあげるといいのではないでしょうか。保持教室では、社会に出てからも自分の世界を広げてほしいという思いから、高校生にはディスカッションやディベートの場を多く設けており、自分の意見を周りの人と積極的に交換しながら英語力を高めていくことを目指しています。
海外子女教育振興財団(JOES)
1971年に外務省および文部省(現 文部科学省)の許可を受け、海外で経済活動を展開している企業・団体によって財団法人として設立。それ以来、赴任者・帰任者のための教育相談・情報提供や、日本人学校・補習授業校への財政上・教育上の援助など幅広い事業を展開している。
www.joes.or.jp
教えていただいたのはこの方々

教育振興チーム・外国語保持教室担当 大石
陽子さん(入団歴28年目)

佐藤 麻衣さん(入団歴5年目)

関西チーム兼教育振興チーム・外国語保持教室担当 小長井 久美さん(入団歴5年目)
スタートは“帰国生の居場所づくり”JOES外国語保持教室へ潜入!
財団設立から3年後の1974年、当時はまだ少数であった帰国生のため、彼らの居場所を作る目的で誕生した保持教室。現在では首都圏・中部・関西に全6教室を展開し、さらに海外からの受講も可能なオンラインクラスを設けている。通常、見学や体験は行っていないということだが、今回、編集部は大阪教室での授業の様子を取材させていただいた。

先生を囲んで大盛り上がりの1~2年生ELクラス
ひとりひとりの成長を見守る少人数・担任制
JOESでは、毎週土曜日の対面教室に加え、平日や土曜日のオンライン教室も開講しており、幼児から高校生までの子どもたちが、学年別、レベル別に分かれた最大15名(オンラインは最大12名)のクラスで英語を学んでいる。授業は80分。ネイティブを中心とした講師による担任制で、ひとりの先生が1年を通してしっかりと子どもの成長を見守ってくれるという。さらに、これまで航空会社や自動車メーカーといった大手企業の協力のもと、英語による会社訪問を実施したり、オーストラリアなどへの海外研修プログラムを行ったりすることで、子どもたちがさまざまな形で英語に触れられる機会を提供してきたそうだ。

小学生高学年となると真剣そのもの。生徒同士も英語で会話
同じバックグラウンドを持った友だちの輪
「海外で身につけた英語を忘れないように楽しく続けてほしい」、「帰国生という同じバックグラウンドを持った友だちや、同程度の英語レベルの友だちと話せる機会を作ってあげたい」と考え子どもを通わせている親御さんが多いそう。実際に教室では、講師の周りに集まり楽しそうに英語で会話する子どもたちや、グループワークに真剣に取り組む子どもたちの様子を見ることができた。

積極的に授業に参加する子どもたち
帰国生特有の悩みに専門家がアドバイス
同教室の魅力のひとつが、教育アドバイザーによる帰国生向けの教育相談。元ニューヨーク日本人学校校長や元広州日本人学校教諭、元三菱商事海外教育相談室長など、国内外での豊富な指導経験を持つ約20名の顧問が、学校生活への適応問題といった帰国生ならではの悩みから、推薦や帰国子女枠で入学できる学校の入試情報まで、さまざまな相談に応じてくれる。周囲に帰国生が少ない環境の場合、専門家にサポートしてもらえることはとても心強い。

どのクラスもまずはリーディングから。先生が寄り添って丁寧に指導する
入室テストが必要なコースもあるが、海外滞在期間や帰国後の年数、インター校か日本人学校かなどに関わらず、帰国生ということであれば受け入れてくれるそう。海外滞在者向けのオンラインセミナーも開催しているので、帰国に向けて早めの準備を進めたいご家庭は一度参加してみるのもおすすめだ。