【香港理工大学】 専門職人材を輩出するトップ校
専門職人材を輩出するトップ大学―香港理工大学(PolyU)
香港理工大と言えば、クロスハーバートンネルの隣に豪壮に建つレンガ造りのキャンパスが特徴だ。9万2千㎡の広大な敷地には9つの学部と26の学科、40あまりの実験室や研究センターがある。前身は1937年に創立された官立の工業学院で、理数系に特化した技術者を育成するため政府によって設けられたという背景を持つ。1994年に大学に昇格し、現在のように香港公立8大学の中でも上位の位置づけとされている。
同校のもうひとつのアイキャッチとなっているのが「The Jockey Club Innovation Tower(ザ・ジョッキークラブ・イノベーション・タワー)」だ。近くを通り過ぎると誰もが一度は目を奪われる奇抜さとデザイン性の高さを兼ね備えている。今は亡き世界的建築家で「アンビルト(不可能建築)の女王」とも言われるZaha Hadid(ザ
ハ・ハディド)氏が手がけたもので、現在はここにデザイン学部が入っている。そのほか理数系の学部以外にも、ホテル観光学部では尖沙咀にあるHotel ICONを独自で運営し積極的にインターンを行うなど、産業界と多くのかかわりを持ち実践的なスキルを学ぶプログラムが多数あることでも有名だ。
www.polyu.edu.hk
「日本の文化を香港に広めたい」若き志
この日編集部の取材に同席してくれたのは、中国語およびバイリンガル学科で教鞭を取る明石先生と、副専攻で日本語を学ぶ学生KARLIさんとHeatherさんの2名。彼女たちが日本に興味を持ったきっかけや、キャンパスライフなどについて伺った。
KARLIさん
工学部 電子情報工学科 4年
学生生活最後のテストも終了し卒業を間近に控える。来年に日本への留学を検討中。好きなことは着付け。
専攻はプログラミングというKARLIさん。アプリも簡単に制作できるという専門性の高さだ。彼女が日本語を学び始めたのは高校生の頃で、そのきっかけとなったのが日本の着物、ひいては着付けとの出会いだった。「香港で着付け師として活動したい」小さな思いは、理工大学に入学して副専攻で日本文化や日本語を学ぶうちに次第に現実味を帯びていく。「ビジネス日本語の授業では敬語の使い方、名刺の渡し方など細かな点を学びました。将来の具体的なイメージを持つのに非常に有意義な内容でした」と話す彼女の学生生活の始まりはちょうどCovid-19の頃。そのような中でも、1年次にはオリエンテーションキャンプに行き、キャンプファイヤーを皆で楽しんだ思い出は忘れられないと言う。4年次の上級日本語の授業ではSDGsについて探求学習を行い、日本語で「ゴミの有料化」について発表した。「賛否両論あるトピックなのでとても興味がありました。プレゼンはすべて日本語だったので緊張しましたが、終わってホッとしています」彼女のあどけない笑顔からは、将来への絶対的な希望と穏やかな探求心が伝わってくる。
Heatherさん
人文学部・中国語およびバイリンガル研究学科(翻訳専攻) 3年
学内ではJapanese Culture Clubで副会長を務め、日本文化の普及活動を行う。夢は国連で通訳者として働くこと。
インターンをいくつか掛け持ち、学内のイベントではMCを務め、大学代表としてコーラス部に所属する。今の大学生はこんなにも忙しい生活を送るのかと驚かされるほど、彼女の毎日は多忙かつ充実している。日本のお菓子が大好きで、そこから仏教に興味を持ち、大学で日本文化について知識を深めている毎日だ。「理工大は学生同士の文化交流が多く、気に入っています。毎週金曜日に世界各国からの留学生が自国のダンスや食べ物を紹介するCultural Nightがあるのですが、さまざまな国の文化に触れあえてとても面白いですよ」とイキイキとした表情で語るHeatherさん。「AIが取って代わる仕事は今後増えていきますが、人間同士のコミュニケーションはなくならない分野です。将来は国連で通訳者として働きたいと思っています」と素敵な夢を教えてくれた。
明石 智子博士
人文学部・中国語およびバイリンガル研究学科
日本の大学在学時にオーストラリアに国費留学。その後日本の公立高校で英語教諭として勤務。縁があり香港へ移住し、理工大学で修士・博士号を取得、現在に至る。
「本校の学生たちを見ていると本当に多彩だなと感心します。英語・中国語のほかにさまざまな言語を自由にスイッチングし、専攻をさらに深め社会での即戦力として巣立っていく後ろ姿は頼もしいですよ」同校で教鞭をとる明石先生が真っ先に編集部に語ったひとことだ。同大学では、現在約120名の学生がそれぞれの主専攻に加え、副専攻として日本語を学んでいる。選択科目として履修する学生を加えると日本語を学習をする学生数は年間のべ700人を越える。その中には、日本での留学や就職、香港の日系企業への就職やインターンシップを目指している学生も多い。彼女が教学の中で最も大切にしていることを伺うと「香港の学生は、アニメやゲームなどで日本に触れてきた人が多いです。なのでフォーマルな表現を使ったり、日本語で読み書きするのが苦手な学生の姿も多くあります。時には英語で、あるいはICTを使ったインタラクティブなゲームなどで丁寧に苦手分野をサポートしています」と話す。授業以外の時間帯には学生との面談で、日本語学習の方法や短期留学の相談を受けたり、領事館や日本人コミュニティと連携しワークショップを実施するなど、リアルな日本を学生たちに体験してほしいと奔走する毎日を送っている。
また明石先生は、日本にルーツを持ち香港で生活する子どもたちに向けた「継承日本語教育」にも従事している。母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)の理事として活動し、香港と世界の教育現場をつなぐ傍ら、毎週金曜日夕方にワークショップを開催している。ここでは香港在住の日本人の小学校高学年~高校生と、理工大日本語副専攻の学生たちがともにディスカッションや日本文化活動を通して楽しく交流しながら、その経験や学びを日本語で論理的にプレゼンする力・書く力を身につけようと学習に励んでいる。先生は「理工大学が様々な理由で日本の言葉や文化を学びたい人たちの学びあいの場所となり、学習者と日本人コミュニティをつなぐプラットフォームになればうれしい」と話した。
マルチリンガルな学習者のための継承日本語プロジェクト は こちら
jhl.bridging.project@gmail.com