香港在住日本人主婦が綴るリレーミニエッセイ Vol.157

2020/07/15

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国際金融都市・香港 ゲームに勝つのは誰だ

 こんにちは。香港が紹介されるとき、よく「国際金融都市」という枕詞が付きますよね。香港は超富裕層が多く住む都市ランキング1位らしいのですが、私自身は超富裕層の香港人に遭遇したことは皆無。路地に駐車する車がすべてレクサスやBMWやポルシェだったりすると、どうやらいるらしいと思うくらいです。今回はお金を手段に戦う人たちを描いた小説をご紹介します。

 

50億円を持ち逃げした美女をめぐる香港マネロン指南
橘 玲『マネーロンダリング』
 香港で毎日を無為に過ごしていた主人公・工藤が、金融知識を買われて、「5億円を脱税したい」という絶世の美女・麗子の依頼を受けたことから事件に巻き込まれていく物語。主人公が銅鑼湾のアパートに住んでいたり、行きつけのイタリアンレストランが蘭桂坊(ランカイフォン)にあったりと、香港描写はリアルでお得感があります(香港在住者にとっては)。HSBC本店前では大事件も起こりますのでお楽しみに(笑)。物語は麗子が持ち逃げしたのが5億円ではなく50億円だったことがわかり、ヤクザも絡んで血生臭い展開になっていくのですが、本作の真の見どころは物語の端々にねじ込まれた金融蘊蓄の数々。オフショア口座開設や法人設立の方法が合法・違法の両面から事細かに解説されたり、主人公が2000年のITバブルで破産寸前まで追い込まれた様子がリアルに描かれたり、金融情報に興味がある方はより楽しめるかもしれません。

 

奪われたホテルを取り戻す!ホテルウーマンの華麗な闘い
真山 仁『ハゲタカ2.5 ハーディ』
 『ハゲタカ』は企業買収がテーマの人気シリーズ(現在全7作)。「ゴールデンイーグル」の異名をとる天才ファンドマネージャー・鷲津政彦が、旧態依然とした銀行や大企業を相手に買収を仕掛け、「再生」させていく物語で、ドラマ・映画でご存知の方も多いかもしれません。本作はスピンオフ作品で、『ハゲタカⅡ』に登場したホテルウーマン・松平貴子のその後が描かれます。貴子の曾祖父が創業したミカドホテルは、経営難により世界的リゾートグループの傘下に入ったものの、貴子はミカドホテルの実権を取り戻そうと悪戦苦闘。そこへかつて貴子の祖母に命を救われたという香港の大富豪・将陽明が現れミカドホテルを取り戻す手伝いを申し出る。貴子は、敵か味方かわからない陽明と、グループ内の権力争いに翻弄され、最後は国際的な諜報戦に突入。読みごたえはとてもあるのですが、実は香港が少ししかでてきません!残念なのはその点だけ。実力はあるけれど、鷲津の強さはない貴子が、命がけの買収劇に「ハーディ」に立ち向かう姿に胸が熱くなること請け合いです。

 

 

「香港上海銀行本店のVIPルームの窓際の席に座って、麗子はぼんやりと外の景色を眺めていた。ランチタイムになって、真下にある皇后像廣場は物売りと、通行人と、弁当を広げる人たちであふれていた。」『マネーロンダリング』 
MTR中環駅の出口を出るとすぐHSBC本店ビルが目に入る。独特のデザインから「蟹ビル」、「油田基地」などと呼ばれているのだそう。正面の皇后像廣場では、お手伝いさんたちが集まっておしゃべりしていました。

MTR中環駅の出口を出るとすぐHSBC本店ビルが目に入る。独特のデザインから「蟹ビル」、「油田基地」などと呼ばれているのだそう。正面の皇后像廣場では、お手伝いさんたちが集まっておしゃべりしていました。

 

「眼下には、百万ドルの夜景が広がっている。夜になって風が出たせいか、光が冴えていた。漆黒に点在する宝石の輝き。香港が持つ闇も汚れも、夜はすべてを覆い隠す」『ハゲタカ2.5 ハーディ』
香港島のピーク(山頂)の近くに、謎の大富豪・将陽明の屋敷があるという。陽明とその娘・美麗の複雑すぎる関係は、国のありようがどれだけ一個人の人生に影響するかということを思わせる。香港の夜景の美しさには、そんな複雑さはみじんも感じられない。

香港島のピーク(山頂)の近くに、謎の大富豪・将陽明の屋敷があるという。陽明とその娘・美麗の複雑すぎる関係は、国のありようがどれだけ一個人の人生に影響するかということを思わせる。香港の夜景の美しさには、そんな複雑さはみじんも感じられない。

 

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KOKURIKOKURI(コクリ)のプロフィール

夫の異動のため、この10年で引越しは4回。書斎を持つ夢を捨て、現在の読書は電子書籍が中心。荷造りも面倒なので、ミニマリストになるべく修行中。

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