香港の「性の展示」に潜入。重慶大厦横の地下で見たもの
文・藤山望
「香港で性の展示をやっているらしい」。そんな噂を聞いたら、行くしかない。展示名は「身皆己身——香港百年性工作歷史計劃」。香港における性労働の歴史と現在をたどる企画とのことだ。会場はチョンキンマンション横の地下商業施設「Heath 慶方」の中。エスカレーターを降りると、鮮やかな看板が目に飛び込んできた。

上には「選擇(選択)」、下には「或來或往、可任意行」。来るも去るも自由、という意味らしい。私は迷わず「来る」を選んだ。
中に入ると、入口の華やかさに反して、会場は意外と無機質だった。私が訪れたときは、若い女性の来場者が多いように見えた。
まず右手の壁に、香港の性労働の歴史をたどる年表がある。古い新聞の切り抜きや写真が並び、性をめぐる仕事が街の変化とともに姿を変えてきたことが分かる。新聞に裸体の写真が載っているのにも驚いた。ただ、説明の多くは中国語なので想像力を働かせる必要がある。
奥にはベッドを置いた小部屋がある。香港で「一樓一鳳」と呼ばれる、性労働者が一人で客を迎える部屋を再現したものだ。「ピンポンマンション」と言ったほうが伝わるかもしれない。ベッドや室内の道具を目にすると、年表にあった「仕事」という言葉が、急に具体的になる。

ベッド横にあったメニュー表
別の一角には、夜の店を思わせるソファ席。QRコードから当事者の声を聴ける展示もあった。入口近くに並ぶ衣装や小物も、最初はコスプレ用品のように見えたが、仕事場や休憩場所を再現した展示の一部だという。ここでは性そのものだけではなく、働く人の時間や生活も表現されていた。

帰ってから入口の言葉を調べ直し、見え方が変わった。「身皆己身、或來或往、可任意行」は、かつて性労働者の証票に記された文句だった。身体は自分のもの、行き来も自由。だが、当時の制度は彼女たちを監視し、検診を強いていた。私が軽い気持ちで選んだ「来る」と、彼女たちに約束された「選べる」は、同じ重さではなかった。
展示の規模は大きくないが、性のあり方について語る機会が増えた今、「自由に選べる」とはどんな状態なのかを考える入口にはなる。近くを通りがかったらぜひ見にいって欲しい。
【展示情報】
「身皆己身——香港百年性工作歷史計劃」
会場:The Garage @ Heath 慶方(尖沙咀・彌敦道36–44号地下)
会期:2026年9月27日(日)まで/入場無料
開場:月~木曜12:00~19:00、金~日曜12:00~21:00
※有料イベントの開催中は展示を一時休止する場合があります。


お得なクーポン満載のPPW公式LINE友だち登録はこちらから!
PPW10月号バックナンバー No.950