僕の香妻交際日記 それでも人間はなぜ犯罪を犯すのか?

2025/02/05

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第93回

私が塾の教室長をしていた頃、親御さんから「うちの子は本を読まないんですがどうしたらいいでしょうか?」という質問がしばしばあった。
最終的には本を読むことの面白さが分からなければ、子どもだろうと大人だろうと本を読む習慣というものはつかないが、子どもに本を読ませるキッカケを作るためにはまずは親が本を読む姿を子どもに見せるというのが定石ではある。

私の場合は母が家で本を読んでいたのが私にとって本を読むキッカケとなった。母は高卒だったし、学校の勉強のことにあれこれ言うタイプではなかったが、好きでサスペンス小説をよく読んでいた。
母は特に西村京太郎の十津川警部シリーズが好きで、私もその影響を受けて西村京太郎や赤川次郎、横山秀夫などのサスペンス小説を好んで読むようになった。

サスペンス小説の面白さは犯人の巧みなトリック工作であり、また人間模様の描写である。物語の中で犯罪者はさまざまな理由で犯罪(主に殺人)を犯すのだが、刑事や探偵がたびたび口にするのは犯人ほど人間らしい生き物はいないということだ。
犯罪者の心理を考察する根底には、まず私たちは常に感情をコントロールして(押し殺して)生きているということの理解が必要だ。なぜ人間は感情をコントロールできるのかというのは幼少期からの教育のおかげであると言っていいだろう。
家庭や学校での教育を通して私たちは善悪を学び、それによってやっていいことやってはいけないことが分かるようになる。この善悪の理解についてはおそらく万国共通と言える。なぜなら、殺人や窃盗を善と理解する人はいないからだ。
では全ての人間が善悪の理解がありながら、なぜある種の人間が悪事を働くのかというと、そこには時代や政治、家庭、学校といったその人間が境遇した環境が関係してくる。
環境によって人間はいくらにでも心変わりが起きる。それは決して正義が悪に変わる可能性だけをいっているのではなく、悪が正義に変わることだってありえるということだ。

となると、誰しもが犯罪者になる可能性があると言えるが、それでもほとんどの人間は相当な怒りや悲しみを抱えたとしても犯罪までは犯さない。なぜならいざとなると「犯罪はしてはいけない」という心の声が聞こえてくるからだ。誰がそんな声を吹き込んだのか?
私が小学校一年生の頃、学校の「宗教」という授業でモーセの十戒を完コピするまで再々再々テストくらいまで受けた記憶があるが、今思えば6歳でモーセの十戒を覚えさせるのはスパルタすぎだろう!でもこのような妥協のない教育が悪に負けない人間を形成してくれるのである。事実、「殺してはならない」「父母を敬え」の2つだけはいまだに覚えている。
では、それでも人間はなぜ犯罪を犯すのか?
犯罪といえば私自身、人生で2度の過ちを犯したことがある。それぞれの件で警察に事情聴取を受け、最終的に一件は示談、もう一件は送検された後、簡易裁判による判決によって穏便に落着したが、どちらも立派な犯罪である。
当時23歳だった私がなぜそんな愚かなことをしたのかというと、それは責任逃れとも自暴自棄とも形容できるが、要するにある瞬間に理性を失ったことが原因と言える。
特にお金が絡んでくると人間の思考や感情はとことん乱れる。それはいわゆる一流大学を卒業している人間だろうと大企業の重役だろうと関係ない。
先にも言ったように、たった一つの出来事をきっかけに平凡な人間でも悪人に心変わりするのだ。

ちなみに犯罪者には2つのタイプがいる。一つは自分が間違っていると分かっていて犯罪を犯した者。もう一つは自分が正しいと思って犯罪を犯している者。犯罪者の多くは前者で、後者の例で言えば地下鉄サリン事件のオウム真理教のような人間だ。
当然、私も前者であり、前者の者が犯罪を犯すと、犯罪を犯したあと極度の恐怖に襲われる。これは私の実体験だが、上述の二つの犯罪を敢行したあと、私は怖くなってすぐに夜逃げを試み、東京の実家へと飛んだ。そして、ロサンゼルス行きのチケットを買って数日後にアメリカに飛ぶ計画を立てた。
東京に戻ってからは昼間は携帯の電源を切り実家に身を潜めた。勤めていた会社の同僚、賃貸の大家からも着信が入りまくりだったが、何よりも警察からの電話が怖くて昼間は電源は入れられないでいた。

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身を潜めて数日後、ロス行きを翌日に控えたある日の昼間、実家の電話が鳴り響いた。母が受話器を取ると間もなくして私を呼んだ。
「龍ちゃん、警察の人から電話よ、あんた何かしたの?」と聞かれたが適当に相槌を打って受話器を受け取った。案の定、大阪の警察からだった。

つづく


ルーシー龍ルーシー龍(りゅう)

東京都出身。香港歴8年。世の中のオヤジの威厳を取り戻すため愛娘に甘い妻と日々衝突を繰り返しながら子育てに奮闘中。

 

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