金候補!「ブレイキン福島あゆみ選手」インタビュー
ブレイキン五輪選考会を控えた3月某日。かつての工業地帯、クントン(観塘)の雑居ビルに、金メダリスト有力候補の姿があった。ダンサーネームAYUMIこと、福島あゆみ選手だ。この日行われていたのは、ブレイキンの国際イベント。世界中からダンサーたちが集結するなか、あゆみ選手はその大会審査員を務めていた。年齢、41歳。参加者たちの練習に加わって体を動かすそのキレのある姿は、10~20歳代を中心としたブレイカーたちのなかにあっても、ひときわ目を引く。この3カ月後、日本代表の座を勝ち取った彼女は、パリへの切符を手にすることとなる──。
福島あゆみ
1983年京都府生まれ。身長154cm。19歳でカナダへ留学し、一時帰国中にブレイキンと出会う。本格的に競技を始めたのは21歳のころ。その後徐々に頭角を表し、2021年世界選手権を制覇、全日本選手権では2022年から3連覇を達成。今年6月、パリ五輪日本代表選手に内定する。
地道な努力が必要なブレイキン。
「サボり癖もあるし真面目に勉強もしてこなかった。でも──」
─全身を使ったアクロバティックな動きが多く、特に女性には難しそうに見えるブレイキンですが、どういうきっかけで始めたのですか?
もともとヒップホップを習ったりはしていたんですが、そんなに熱中していたわけでもなく、19歳でカナダへ語学留学するのを機に辞めてしまいました。ブレイキンは21歳の時、先に始めていた姉に誘われたのがきっかけです。
──21歳でブレイカー人生が始まるわけですね。一般的にはややスロースタートとも言える歳ですが、すぐに上達しましたか?
始めた当初は、「じゃあこれやってみて」と言われたことが全くできなかったんです。そもそも手を床に着いて踊るなんて普通じゃないでしょ?まずそこから大変だったし、6歩(※ブレイキンの基本となる技)のベーシックな動きもきつくて、とにかくなにも満足にできませんでした。ブレイキンには、半分ダンス、半分スポーツみたいなところがあって、毎日コツコツやらないと上達しない。でもいま思うと、それが自分の性格にハマったんでしょうね。
──では、従来コツコツ努力するタイプ?
いえ、まったく(笑)。すごくサボり癖もあるし、勉強も全然真面目にできなかったけど、ブレイキンだけは面白くて、すぐにのめり込みました。普段はただのテンパり屋さんで、周りからはいつもせかせかしていると言われます。
良くも悪くも、正解がないのが面白いところ。
──ブレイキンは、対戦相手と交互に技を見せる「バトル」のスタイルですよね。元々はギャングが抗争を平和的に解決するための手段だったとか…。踊りながら、けん制し合っているイメージです。
オラァってね(笑)。多少はそういう部分もありますよ。やっぱり弱々しいのは誰も見たくないから、強さを見せるというのはあります。でも、その時の相手との兼ね合いや、その関係を築きながらどう自分を表現できるかということがいちばん大事ですね。
──スポーツ競技としてのブレイキン。どの点に注目して見ればいいですか?
自分がやりたいようにやれるのがブレイキンで、良くも悪くも正解がないので、それが面白いところではありますね。もちろん決まったムーブ(※パフォーマンス)はあって、それをみんな練習してきているんですが、どう使うかや、どのタイミングで使うかなどは、人それぞれなんです。
舞台前は今でも緊張。でも五輪へのプレッシャーはない。
──音楽との融合性も審査基準のひとつですが、DJの選曲は事前に分からないですよね?即興で踊っているように見えますが、構成はその場で考えるんですか?
私は事前にあの技とあの技をやろうというのはちゃんと決めていて、それを頭で描きながら踊っています。イチから全部フリーっていうのは、特に大きい大会なんかだとやっぱり怖くて。
──競技前はどんなことを考えているんですか?
やばい、やばい、緊張するーって思ってます(笑)。舞台に上がる前はいつもですね。一生続くと思うけど、緊張しないって良くないことではありますよね。いい緊張も大事です。
──2カ月にわたる五輪日本代表の選考会が迫っていますね(※取材日は選考会前)。メダル有力候補とも言われていますが、プレッシャーは?
それはあまりないかな。自分ができることをしっかり頑張るだけ。あとは怪我をしないように。それしか今は考えていないです。
夢は、オリンピックのその先に。
──スポーツの世界で、第一線で活躍し続けることは簡単ではないと思います。特に精神力を保つのは並大抵のことではないですよね。
「常にチャレンジ」という気持ちでやっています。もちろん人間なので落ち込むこともありますが、ダンスから学ぶことって、とても多いんですよね。単純に動きだけではなく、人間性だったり。ダンスが自分を成長させてくれていると思います。それと、やっぱり周りの力ですね。家族や支えてくれているチームメイトなど、みんながいて今があるととても感じています。
──普段はどんな生活を?
ダンス講師や、チューターとして英語を教えたりしていますが、今はほとんどダンサー1本です。あとは、アパレルも少し。チームメイトと一緒に「Baked Click」というブランドを手がけていて、私はデザインアイデアを出したりしています。実際に私もダンス衣装や普段着として使っているんですよ。
──今後の目標は?
もちろん、ブレイキンはずっと続けていきたいと思っています。でも、今やっていることとは全然違う、新しいことに挑戦したいとも考えていて……。何をするかは、今はナイショですけど(笑)。
審査員としてジャッジする鋭い眼差しとは打って変わり、終始無邪気な笑顔でインタビューに応じてくれたあゆみ選手。ダンサー、競技者、英語教師、アパレル業、そして新たな夢への挑戦──。高く舞い続ける彼女から目が離せない。
注目の新競技、ブレイキン。開催は、オリンピック最後の週末となる8月9日(金)、10日(土)に予定されている。
※は編集部追記
未来のオリンピアン!?
キッズ全日本王者WATO
父親の勧めで5歳からブレイキンを始めたという倉井湧都(ダンサーネームWATO)さん、小学5年生(取材当時)。競技を始めてわずか4年足らずで全日本選手権ジュニア部門を制し、強化選手にも選ばれている。この日は世界中から集まった大人のダンサーたちに混ざり、小さな体で難易度の高い技を見せつけた彼。そんな将来有望のスーパーキッズに話を聞いた。
──練習は毎日?
はい。栃木に住んでいるんですが、週に2回は神奈川のスクールに通っています。それ以外の日も練習するので、学校の友だちと遊ぶ時間はなかなか取れないですね。
──得意な技は?
僕は回るのが好きで、パワームーブが得意です。
──WATOさんから見てAYUMIさんはやはり違う?
ひとつひとつの技の形、キレがほかの人と違います。オリジナルの技も多くて、すごいなと思います。
──オリンピックには出場したい?
出たいです! 今回のオリンピック選考会にも参加したかったんですが、年齢制限でダメでした……。でも、4年後は目指したいです。
──最後に、夢を聞かせてください。
ブレイキンの世界大会で1位になることです!