偉人も愛した老舗【1860年開店・太平館】
油麻地店をはじめ、中環、銅鑼湾、尖沙咀に店を構える港式西洋レストラン「太平館」。中国や香港でもっとも歴史ある店としてメディアでも頻繁にクローズアップされる人気店だ。ここで多くの人が食事をし、会話を楽しみ、ソウルフードと呼べる味を見出してきた。開店から165年もの間、人々に愛され続けるその理由とは?
清朝時代に開店した店
後に太平館レストランの創業者となる徐老高氏は、広州沙面の外資系企業で料理長を務め、西洋料理をふるまっていた。退社後は毎日屋台を押し、中華料理と西洋料理を融合させた独自のメニューを開発。その料理は瞬く間に人気となり、1860年(清朝咸豊10年)、徐氏は広州太平沙という地で、地名になぞらえた「太平館」をオープンさせた。同店は中国で華人が開いた最初の西洋料理店と言われている。
1938年、3代目が香港・上環で初めて「太平館」を開店し、香港スタイルの西洋料理の祖となった。同店は香港の食文化において多大な影響をもたらし、家族経営の伝統あるレストランとして今もその存在感を放ち続けている。
常連のブルース・リー
また、同店には孫文、周恩来、蒋介石、魯迅といった歴史上の偉人のほか、ブルース・リー、ジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポーなどスター界の面々や、ブルース・リーの大ファンである横浜流星など日本の著名人も数多く訪れるほどの知名度の高さ。ちなみに、油麻地店のすぐ近くに自宅のあったブルース・リーは同店の「瑞士汁牛肉炒河粉」をよくオーダーして食べていたそうだ。
オリジナルの醤油を生かして
現在5代目を務める徐錫安氏も幼少期から祖父や父親の背中を見て、飲食ビジネスを学んだ。店を継ぐことを当然のように受け入れ、1993年に総経理に就任。そんな徐錫安氏に同店の強みを聞いた。
「私たちには特製の醤油があります。創業者の徐老高は当時、西洋料理を食べたことのない華人にどうしたら受け入れてもらえるか試行錯誤したと聞きました。華人だけでなく、醤油は東アジア人にも圧倒的に馴染みのある調味料。先代は醤油にこだわり続け、独自開発の工程を創り出しました」。この醤油は、同店の看板メニューである「瑞士雞翼(スイスチキンウイング)」や「瑞士汁牛肉炒河粉(スイスソースビーフヌードル)」、「太平館燒乳鴿(丸焼き鴨のロースト)」に使用され、やみつきになる奥深さと香りを出している。
また同じ味を保ち続ける秘訣を聞くと「私たちのシェフは若い頃から同店の厨房に入り技術を磨いていきます。30年以上勤続するシェフが多く、彼らの腕が太平館の味を支えているんですよ」と答えてくれた。
見た目&食感バツグンのスフレ
同店の人気メニューはほかにもある。それが巨大スフレの「太平館焗梳乎厘」。大きさにも驚くばかりだが、食感のよさは特別な製造工程にあるようだ。全体の70%は卵白で作られ、ふわふわでクリーミーな味わい。この軽さゆえ数人であっという間に平らげてしまうヘルシーなスイーツと言える。この巨大スフレは誕生日などの記念日にオーダーするお客さんが多いそうで、まさに香港人のソウルフードにぴったりなメニューである。
長年のお客は4代も続いて来店するほど昔ながらのファンは多い。祖父母の代が孫を連れて誕生日などの祝い事をし、またその孫が家族や友人を連れてテーブルを囲む。昔と変わらぬ味に舌鼓を打ち、楽しい会話や、笑顔が生まれていく。そうして店を出る時には「また次回もここで」というような約束を交わし別れていく。「太平館」というレストランは、思い出を紡いでいく大事な役割を担っている。
徐錫安氏は最後に「世代を超えて来店していただきたいですね。これからも多くの方に愛される伝統ある店を続けていきます」と話す。今日も同店ではオールドジャズが流れ、静かな食器の音が響く。歴史の層をまた一枚積み重ねていくように。
油麻地店
19-21 Mau Lam St., Yau Ma Tei
(852) 2384-3385
ほか中環、銅鑼湾、尖沙咀の全4店舗
www.taipingkoon.com.hk