尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.22
従業員の恐喝行為への対応策
近年、従業員が会社の違法行為を理由に、労働局、社会保険部門、税務局又は税関など政府関連部門に対し「行政告発をする」として会社側を恐喝し、財物を強要する事例が増えている。本稿では、事例分析を通じてその対応策について検討する。
主要事実関係と判決要旨
被告人王氏は、会社が労災保険のみに加入し、その他の社会保険(養老と医療保険など)には加入していないことにつき、社会保険部門に告発した。王氏は会社側と数回にわたり協議を行った結果、王氏が告発をやめることの代価として、会社側が王氏に10万元(口止め料)を支払うことで最終合意をし、王氏が実際10万元を受領し、会社を離れるところで駆け付けた警察に逮捕された。
王氏は、一審で有期懲役1年と2千元の罰金刑を言い渡された後、上訴したものの、2審(終審)は王氏の上訴を棄却し、1審判決を維持した。王氏が、「会社が支払った10万元は、(自分が)会社を告発しない代価として受領したものではなく、賠償金に該当する」として、高級人民法院に不服を申し立てた(申訴)結果、これも法院によって棄却された。
会社側の対応策
本件事例と類似する事例に遭遇した際、以下に整理した法院の裁判指針と会社側の対応策が、関連紛争の解決においてご参考になれば幸いである。
(1)法院の裁判指針
「刑法」第274条の規定によれば、公私財物を強要し、金額が比較的大きい者、又は数回恐喝行為をした者は、3年以下の有期懲役、拘留もしくは保護観察(管制)に処し、罰金を併科し、又は罰金を単科する。恐喝した財物の金額が巨額であり、又はその他の重い情状がある場合は3年以上10年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。恐喝した財物の金額が特に巨額であり、又はその他の特に重い情状がある場合は10年以上の有期懲役に処し、罰金を併科すると規定されている。
① 主観的要素:恐喝罪が成立する為には、行為者に不法占有の目的があること。相手方(恐喝行為の被害者)の違法行為により、自分の合法的な権利が侵害された場合においても、自分が被った経済的損失を大幅に超える財物を交付するよう相手方に強要する行為は認められない。
② 客観的要素:行為者が脅迫、恐喝などの手段を用いて相手方に財物を交付するよう強要し、その財物の金額が比較的大きいこと。「司法解釈」により、恐喝した公私財物の価値が2千元から5千元以上、3万元から10万元以上、30万元から50万元以上に達する場合、それぞれ「刑法」第274条に定められた「金額が比較的大きい」、「金額が巨額」、「金額が特に巨額」である要件に該当する。
(2)会社側の対応策
会社側は、恐喝行為と財物交付に関する証拠を収集、保管することで、なるべく紛争解決の主導権を握る必要がある。
また、労使間の紛争を回避する為に、会社は合法的な方法により日常の生産経営管理を行い、法に違反する事実がある場合は、行政告発と処罰を受ける前に可及的速やかに是正・改善措置を講じることが望ましい。なお、従業員から財物強要などの違法行為がある場合は、法的解決を念頭において、遅滞なく弁護士にご相談することをお勧めする。
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尹秀鍾 Yin Xiuzhong
慶應義塾大学法学(商法)博士。東京と北京の大手渉外法律事務所での執務経験を経て、2014年に深センで広東深秀律師事務所を開設。2020年春に広東卓建律師事務所深セン本部にパートナーとして加入。華南地域の外国系企業を中心に幅広い法務サービスを提供。主な業務領域は、外商投資、M&A、労働法務、事業再編と撤退、模倣品対策、紛争解決など。
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