中国法律コラム44「職業病に罹患した従業員への賠償問題について」広東盛唐法律事務所
〜職業病に罹患した従業員への賠償問題について〜
小生の顧問先にて、職業病に罹患した従業員が民事賠償を求めて会社を訴えるという事件が起こりました。今回の法律コラムでは、会社は労災保険関連の責任を負う他、さらに民事責任まで負わなければならないのかという問題について解説します。
一、背景
従業員Aは、職業病に罹患し、後遺障害等級を認定された。労災待遇を享受した後、さらに、会社に対して民事賠償責任を請求するとしている。これについて、以下2点について検討したい。
1、従業員Aの民事賠償請求には法的根拠があるか?
2、会社は民事賠償責任を負うべきか?
二、分析意見
1、従業員Aの民事賠償責任には法的根拠があるか?
(1)《労働法》、《社会保険法》の定めによると、従業員が職業病と診断された場合、労災保険待遇を享受することができる。よって、会社は《社会保険法》の定めに従い労災認定を申請し、従業員Aは労災保険待遇を享受した。
(2)《職業病予防治療法》58条には、「職業病患者は法により労働災害保険給付を受けるほかに、民事に関する法律により賠償を得る権利を有する場合、使用者に賠償を請求する権利を有する。」と定められている。
この規定によると、職業病に罹患した従業員は、労災保険待遇を享受できるほか、使用者に職業病の発生について明らかな過失のある場合や、職業病の危険性のある労働場所の管理に法令違反行為のある場合は、従業員は不法行為に関する法令に基づき、使用者にその違法行為又は過失行為について不法行為による損害賠償責任を負うよう要求することができる。
(3)従業員Aが労災保険待遇を享受した後、会社に対してさらに民事賠償責任を追及することは、法律の条文からは、法的根拠のあるものといえる。但し、会社が必ず賠償責任を負わなければならないということではない。会社が賠償責任を負うべきか否かは、従業員Aが職業病に罹患したことについて会社に過失があるか否か、労働場所の管理について法令違反行為があったか否かによることとなる。
2、会社はどのような場合に民事賠償責任を負うか?
《職業病予防治療法》58条によると、職業病に罹患した者は、労災保険待遇を享受できるほか、関連の民事法律に従い、賠償を受ける権利のある場合、使用者に対して賠償請求をすることができる。ここにいう“関連の民事法律”とは、法令では明確にされていないが、司法実践においては、《権利侵害責任法》により調整及び解釈がなされている。すなわち、使用者に職業病の予防について過失がある場合、又は過失により従業員を職業病に罹患させた場合、不法行為責任による賠償責任を負わなければならないということである。使用者の過失が大きいほど、法令違反の情状が重たいほど、負担すべき責任は大きくなる。使用者は、職業病の予防管理が《職業病予防治療法》に適合していたこと、職業病の恐れのある労働場所の管理が関連の法令を満たしていたこと、過失のなかったことを立証できれば、職業病が発生した場合でも、労災保険手続き及び労災保険法に定められた責任を履行するだけで足り、民事賠償責任を負わなくとも良い。
つまり、会社が職業病危害の告知義務、労働保護義務、安全保障義務、治療義務、及び労災待遇の支払い義務を履行しており、かつ、職業病予防治療の要求に従い職業病危害防護制度及び職業病危害防護措置を確立しており、職業病危害の要素の日常監査、検査システムを確立しており、従業員に必要かつ合格した労働防護用品を提供しており、職務に就く前、在職期間中、職務を離れる前の職業健康検査を受けさせていたのであれば、会社は従業員Aが職業病に罹患したことについて過失はなかったといえる。この場合は、不法行為による損害賠償責任を負わなくてもよいと考える。
三、今後の対応策
(1)まずは、従業員Aと協議により解決を図ることがよいと考える。人道主義の観点から、一定金額の見舞金を支払うこととし、かつ、書面形式の示談書を締結し、今後、従業員Aは一切の請求をしないことを約定することが望ましい。
(2)従業員Aとの協議の整わない場合、従業員Aは民事訴訟を提起するものと考えられる。よって、本意見書において述べた職業病の予防及び防護方面の責任及び義務を果たした証拠を収集すべきである。
以上
広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問
大嶽徳洋 Roy Odake
行政書士
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中国の法律事務所で10年以上の実務経験を有しています。
得意分野は、労働法・会社法・契約法です。
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九州出身、趣味は卓球です。
深圳市で日本人卓球クラブの代表を勤めております。
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