アナシス人事労務誌上相談「『健康経営』を中国・香港で追い求められるのか?」

2025/05/14

Vol.87240216 YK問い:日本本社から現地法人の「健康経営」に関して意見を求められました。何から手をつけて良いか分かりません。

 

黒崎:「健康経営」は2013年頃から経済産業省が推進してきた歴史あるコンセプトです。少子高齢化による労働力不足や医療費増大という日本の課題に対応するため、企業の自主的な健康管理を促す政策として発展してきたものです。
ここ香港・中国でも同様の課題があり、学ぶべき点は多いでしょう。ただし、日本ほどは普及していません。日系企業では健康診断や医療保険の提供などは見られますが、積極的な取り組みはまだ少数です。また、障害者差別条例や個人情報の観点から当地での実施には慎重さも求められます。
逆に、傷病休暇の不正取得対策の相談が目立つなど、悲しい現実的な課題もあります。
さて「健康経営」とは、経済産業省の定義で「従業員等の健康管理を経営的な視点で戦略的に実践すること」とされ、人的資本の質的向上が企業価値創造に直結するとされています。従業員の健康増進への投資が活力や生産性を高め、企業の収益性向上につながるという考えです。
健康経営と生産性の関係を裏付けるデータや企業事例も増えています。経済産業省の「健康経営優良法人」に認定されている企業では高ストレス者の割合が少なく、エンゲージメントの得点や人材定着率が高いとのこと。離職率に悩む企業としては検討すべきでしょう。米国ジョンソン・エンド・ジョンソン社の事例では、健康増進プログラムへの投資で約3倍の医療費削減効果が得られたと報告されています。健康経営は単なる福利厚生ではなく、経営戦略として取り組むに値するテーマだと考えられます。
香港においても多国籍企業や大手地元企業を中心に健康増進プログラムが導入されています。不動産大手スワイヤー・プロパティーズでは、年間を通じて従業員向けに「小さな習慣の変化で健康を促進する」ワークショップやオンラインでの心身の健康セミナーを開催し、従業員とその家族の健康意識向上を図っているとのこと。働く側から見れば、健康支援への期待は少なくありません。
しかしながら日系現地法人においては、在日本の大手企業や現地大手のようには対応は難しいことも事実でしょう。
無理なく実践できる施策を選ぶことが現実的なアプローチです。日本の中小企業のとっているような創意工夫は、現地でも参考となるでしょう。
例えば72名の日本のIT会社では、健康調査を実施した結果「睡眠の質が悪い」と感じている割合が62%と高く、運動不足と睡眠の質の相関性が見られたために運動施策を実施。全従業員が5チームに分かれ、チーム対抗戦の「平均8000歩/日」を目指す歩数チャレンジやストレッチ施策を実施したところ、28.4%まで上記割合が減少して目標値をクリア。一緒に取り組む良い文化創造を含め、工夫次第で経営の意思を伝えられた事例でしょう。弊社も歩数は見える化を実施しています。
具体的な施策に関しては、経済産業省が進める「健康経営優良法人」の認定制度の事務局サイト(https://kenko-keiei.jp/)が参考になります。そこでは2025年3月発行の
「健康経営ガイドブック」が無料で入手できます。健康経営の実践手順や戦略マップの作成方法など詳しく掲載されています。そこまでやる必要性を感じるかどうかはトップ次第ですが、参考までに優良法人認定要件(中小規模法人部門)の大項目をあげると、
1.経営理念・方針 2.組織体制 3.制度・施策実行 4.評価・改善 5.法令遵守・リスクマネジメント とあります。
まずトップのコミットメントが最も重要でしょう。それが1の経営理念・方針の項目となります。経営者が宣言を行い、従業員の健康作りに取り組む意思を示すわけです。組織体制としては「健康づくり担当者・責任者の設置」というものが挙げられています。続いて個別の制度・施策となるのですが、継続できる現実的なものから始めるのが良いでしょう。
弊社も実際の制度は健康診断と医療保険ぐらいですが、毎年季節が変わって健康を害しやすい季節にビタミンデーとしてサプリメントを配布しています。そこに込めるメッセージが重要だと考えています。
上述の通り、現実には任意の傷病休暇を設定すれば、その日数だけしっかり休む人が増える組織文化の会社がある一方で、まったく休まない会社もあります。組織文化による部分が大きいと考えます。健康経営というテーマを考えることで、今一度自社の組織文化を見直すのはいかがでしょうか。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して2016年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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