目から鱗の中国法律事情「日本と中国の著作権の対象 その5」

2025/04/02

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

Vol.99 日本と中国の著作権の対象 その5

前回までで、著作権法は概ねどこの国も同じだが、微妙に違う点もあるという話をしてきました。そして、中国と日本の著作権法の規定を比べると、中国の著作権法では直接保護の対象となっていないものの、日本では保護されるものに「口述権」があるということが分かりました。今回はこの話です。

口述権とは
口述権とは、「その言語の著作物を公に口述する権利」です(日本の著作権法第24条)。つまり、小説などの著作物を、公の場で読み上げるといった権利です(個人的な場でない限り、「読み上げる」行為も著作権侵害になります)。では、日本は著作権法第24条によって口述権も保護されていることが分かりました。
しかし、中国の著作権法には口述行為を直接規制する条文はありません。とは言っても、中国の学術書や学術論文などを読んでみると、一貫して「小説などの文章著作物を著作権者の同意もなく公の場で読み上げる行為は著作権侵害を構成する」と書かれています。しかし、残念なことにこのように表現しているものの、どのような法的構成によって著作権侵害を構成するのかについては一切書かれておりません。これに無理やり法的根拠を与えようとすると、中国著作権法第10条の「17」に規定されている「著作権者が享有すべきその他の権利」を用いるしかなさそうです。

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結局、「著作権者が享有すべきその他の権利」という中国の著作権法に存在する権利は非常に便利な規定であると言えそうです。法律があっても解釈次第で様々な権利を創設することができるのですから。もっとも、あくまで学説上は、「小説などの文章著作物を著作権者の同意もなく公の場で読み上げる行為は著作権侵害を構成する」と考えており、その法的根拠が「著作権者が享有すべきその他の権利」との規定であると「考えられる」程度の話であり、中国の裁判所(人民法院)が本当に中国でも「口述権」を認めるかは分かりません(まぁ、さすがに認めるでしょうが)。

このように単に著作権と言っても、各国で微妙が違いがあるということです。

(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学アジア地域研究所特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら、講演活動などもしている。韓国・壇国大学校、東アジア人文融複合研究所、海外研究諮問委員や市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて「高橋孝治の中国法教室」連載中。

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