アナシス人事労務誌上相談「賞与原資の決め方を教えてください」
Vol.85
問い:今年は既に支給を決めていますが、例年だいたい同じぐらいの賞与です。原資の決め方や配分はどうすればメリハリをつけられますか?
黒崎:まず会社裁量で支給される「裁量賞与」と、支給を約束した「ダブルペイ」とは分けて考えてください。香港系企業が発祥と思われるダブルペイの習慣は、旧正月前後に給与1ヵ月分などを一律に支給する制度です。法的に支給しなければならないものではありませんが、会社で支給を約束していれば、業績が悪いからといって支給を止めるわけにはいかないものがダブルペイです。 アナシスの調査では香港では約76%、広東省では約37%の日系企業がダブルペイ支給を実施しています。上海になると約22%と実施企業が少なくなります。これを「賞与」と定義する人としない人がいることにも注意が必要です。
さて、「裁量賞与」の支給月数ですが、おっしゃるように実は日系企業では毎年それほど変化がないようです。よほど業績が悪い時でないと支給ゼロとはならないのが現状です。これにはいくつか理由が考えられます。まず日本の賞与が生活給的に支給され、定例化して既得権のように運営されてきたこと。その考え方が持ち込まれやすいのが日系企業です。そして、賞与水準を決定する駐在員の任期が短く、赴任期間中に支給の減額や大幅な制度変更などすれば、リテンションに影響がでるといった不安があること。辞められたら困るという現実があります。
賞与のありたい姿は「利益の従業員への還元」です。すなわち業績連動で賞与原資が決められ、個人の貢献度に応じて配分するというもの。しかし上記に挙げた理由からなかなか改革が進まないことも実態としてあります。結果として少ない原資に少しの差をつけるレベルでメリハリのない賞与になりがちです。
さて日本においても「決算賞与」として、通常の賞与の他に業績連動型の賞与を支給するケースも多いと思います。この仕組みを現地に導入していくのが一番理解も納得感もあるのではと思われます。それは「超過利益分配方式」とも呼ばれ、「(実際利益-予定利益)×一定比率」で算出されます。現地法人においても予算策定時に予定利益を前提とした賞与予算を設定しておき、実際の利益が予定を超過したときに、例えば税引き前利益の4分法(従業員・株主・内部留保・税金)などで一定比率を決めて実際の賞与原資を増やすというもの。賞与が全社業績や個人の評価に基づくため、業績向上に貢献する意識を高め、モチベーション向上に役立つはずです。業績が悪い場合には賞与予算も調整することで支給が減るため経営への圧迫は防げます。しかし賞与支給が不安定になることで、従業員に不安を持たせることにもなり得ます。
業績連動型賞与の設計においても、固定部分と変動部分を作ることで、安定的な支給を実施するという考え方があります。まさにそれが当地では「ダブルペイ」となってきたとも考えられますが、残念ながら既得権化してしまうとそのありがたみが消えていくものです。
しかも現地法人の利益そのものが、本社との兼ね合いで決まってくる企業も少なくなく、利益基準の裁量賞与をどう
設計するかには工夫が必要となります。
より厳しく変化していく経営環境の中では、業績連動型が優れていると思います。会社に貢献する個人に厚く報い、
既得権にしがみついて貢献出来ない人には去ってもらう。その「遠心力」になるものが業績連動型の賞与です。
さて、業績連動型賞与の場合の配分方法もいくつかあるので表にしました。総支給額をコントロール出来る一方で、安定的な賞与とならない点に注意が必要なことと、評価制度の適切な運用がキーとなります。過去支給実績と市場動向を見た上で、当期業績の結果を若干影響させる程度の仕組みから、メリハリのつく効果的な賞与制度を設計するには、評価そのものを見直すことから始めてみてください。
<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して2016年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。
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