【現地企業へ転職】駐在員からのキャリアアップ
「北海道 函館3.7牛乳」、「MILK TOP」、そして昨年に販売を開始した新たなラインの「プレーンヨーグルト」。香港に住む私たち日本人にとって日本クオリティーを享受できるありがたい仕掛け人がいる。それが北海道マルシェという企業だ。今回は、駐在員という後ろ盾を手放し、現地企業の総経理に就任した木場氏に当時の心境などをうかがった。

Hokkaido Marche Hong Kong Limited
GM 木場 信太郎氏
兵庫県出身の35歳。大学卒業後、商社に入社。海外から冷凍食品の輸入仕入れなどに従事し、2018年に香港事業立ち上げのため着任。その後、取引先だった現会社オーナーとの出会いを機に、21年に前職を辞め、同社・総経理に就任。
創業者の目にとまり白羽の矢が
SOGOやYATAなどに店舗を持つ北海道自家製アイスクリーム・デザートでお馴染みの「MILK TOP」。もとは既存のとある日系企業が香港を撤退する話が持ち上がった時に、従業員だった香港人のオーナーが買収し、2006年に正式に設立。同社は「安心・安全・健康」をモットーに、北海道産のフレッシュミルクを原料に生産を行ってきた。現在、5カ所での店舗展開のほか、自社物流、倉庫、工場を構え、設立当時よりも規模を拡大し続けている。
前述の香港人オーナーは、日本語が達者で、香港の日本食品業界では顔の広い敏腕経営者だ。自身の海外移住のために、十数年という月日を費やし我が子のように育ててきた会社を、任せることができる適任者をずっと探していたある日、取引先の会社で木場氏を知ることになる。仕事に対する姿勢、頭の回転の速さに適任はこの人しかいないと感じていた。

香港では5カ所に店舗展開
3年の任期内に結果を出す
木場氏は2018年より商社の駐在員として新規事業立ち上げのため来港した。日本での食品輸入販売の経験と知識を生かし、香港マーケットのリサーチから始めたという。任期は3年と命じられ香港の地を踏んだ時のことを同氏は振り返る。「もともと駐在員の任期が長い社風を変えるため、3年の任期が設けられました。駐在当初から決めていたこと、それは1年目は実績作り、2年目は土台固め、3年目は引継ぎを念頭に置き、準備していました」。
そんな3年間が終わろうとしている矢先、実際には帰任辞令は出なかったものの、木場氏の中で前社の経営体質に対する疑問や、自己成長を望むことが難しい状況に出くわしたのもこの頃だった。日本での転職も頭をよぎった同氏だったが「組織の歯車でいることに悩んでいた時に、非常にいいタイミングで現会社から転職のオファーをもらったのです。待遇面では下がりましたがやりがいのあるポジションでしたし、業績が上がればインカムも増える余地は期待できました。また、妻の後押しもあり、当時は子どももおらず気楽な気持ちで、挑戦することに決めました」と話す。
新しいステージで待ち受けていたのは言葉の壁
総経理のポジションについた21年、コロナ禍も重なり不安要素は少なくなかったが、真剣にオーナーからの実務引き継ぎに注力。オーナー移住後、それまでオーナーを介して現地スタッフとコミュニケーションをとっていたこともあり、目の前には大きな言葉の壁を感じたという。「北京に語学研修に行ったこともあったのですが、やはり香港は広東語や英語が主流だと感じましたね。またスタッフに業務連絡をするときは、メッセージだけでは冷たく感じられたり、ニュアンスが伝わらない場合もあることを考え、口頭も交え、丁寧なコミュニケーションを心がけています」と、業務上の工夫点を教えてくれた。
経験を生かし業務筋へ事業を拡大
同氏が入社した当時、販路は小売やスーパー向けの卸ばかりだったそうだ。そこで前職で熟知していた仕入れリソースの知識を生かし、ホテルやレストランなど業務筋へ販路を拡大。現在、アイスクリームや牛乳をメインとした香港・マカオ商圏の卸売が売上の大部分を占めている。一部OEM商品も入るのでパッケージ上区別がつきにくいかもしれないが、香港の最大手スーパーや、日系およびローカルの外食チェーンなどで同社の製品を常日頃手に取ることができる。この人気の理由について同氏は「輸入品規制の少ない香港では珍しく、乳製品とアイスクリームのライセンスを所得することは難しいこと。また、北海道から毎週輸送する牛乳を原料に、香港で製造するメイドイン香港の商品を、フレッシュな状態で出荷・配送できることが弊社の強みです。競合が追随しにくいポイントだと思います」と語る。
昨年には新しい試みである「ヨーグルト」の生産・販売を開始。ヨーグルトというと賞味期限の短さや、空輸輸送による高い価格設定を連想するだろう。同氏はこの点に着目し、ヨーグルトも自社工場で製造することを決めた。「実は、毎週コンテナ輸送している北海道牛乳のフードロスが出る週もあったので、この分をヨーグルトにあて手作りで生産したことがきっかけでした。香港で製造するので低価格で、フレッシュな状態で配送することができるようになりました」と誇らしげだ。

スーパーWELLCOMEから贈られたOEM製品アワード
今後は、オートメーション化を導入し、量産できる体制づくりを整える。また、メイドイン香港の同社製品を、日本へ逆輸入する準備も着々と進めているそうだ。
私生活では2歳のお子さんのパパでもある木場氏。「子どもが薄着だと、お節介を焼いて注意してくれる香港の方のあたたかさが好きですね。物価こそ高いですが、香港は住みやすくエネルギーに満ち溢れる街です。今後もここでチャレンジし続けていきたいです」とはにかみながら教えてくれた。

毎週末はサッカーピッチで汗を流す
Hokkaido Marche Hong Kong Limited
Unit 11-19, 23/F., Block A, Regent Centre, 63 Wo Yi Hop Rd., Kwai Chung, NT
(852)2428-3101
www.milktop.com.hk