教えて!総経理!【株式会社メディライト 代表取締役 幕田尚幸氏】

2025/01/01

CTD作成業界の草分け
日本の高度な医療技術を世界へ

image (3)

株式会社メディライト
代表取締役 幕田尚幸氏

日本国内にはメディカルライティング専業の会社がほぼ無い2002年に創業して、現在では草分け的存在と言える「株式会社メディライト」。潰瘍性大腸炎、痛風・高尿酸血症、多発性骨髄腫、生殖医療関連治療薬などのCTD(承認申請書類)の作成、不妊症領域を始めとする臨床論文の作成などを行っている。日本での上市が切望された薬剤開発の多くに関与する同社の「先見の明」とは?

 

Q:さっそくですが、会社勤めから独立して現会社を設立した背景をうかがえますか?
A:はい。大きなターニングポイントは、2002年(平成14年)の薬事法改正です。これにより、申請書の書式が明確化されるとともに、記載事項が大幅に増えました。このため製薬会社は、従来自社内で行っていた申請書類の作成を、積極的に外部に委託するようになりました。この流れをチャンスと捉え、東京でメディカルライティング専業の会社として(株)メディライトを設立しました。

メディカルライティングとは、一般的には医学的な内容を含む文章の作成すべてを指しますが、製薬業界におけるメディカルライティングとは、CTD(Common Technical Document)や医学論文の作成を意味します。このCTDとは、医薬品を開発して各国の規制当局に申請し承認を得る際に求められる、申請書の書式のことです。設立当初は同業者がほぼ皆無に近く、先駆者としての地位を確立できたと自負しています。おかげさまで話題性の高い製剤のCTD作成依頼が、今に至るまで途切れることなく続いている状況です。

Q:香港オフィスの立ち上げはいつ頃でしたか?
A:2017年です。香港メディライトは日本を代表する不妊診療クリニック、C型肝炎治療専門病院、がんの重量子線やサイバーナイフを用いた治療施設等とともに、広くアジア諸国の患者さんを本邦に受け入れる体制を構築することを目的とした、医療ツーリズムを本業とする会社として設立しました。しかしコロナ禍により予定変更を余儀なくされたことから、日本でのメディカルライティング業務を引き継いで行うとともに、臓器癒着防止材(ナノシート)などの医療資材の中継ぎ貿易を行う準備をしています。このナノシートですが、来年に日本で承認を取得する予定であり、弊社は持ち前の申請書作成能力を活かして、同製品をアジア諸国で上市することを目指しています。

Q:メディカルライティングの講師としても活躍されていますね?
A:そうですね、大学や製薬会社からオファーを受け香港と日本を行き来しています。メディカルライティングには文章力よりもむしろ、科学的根拠に基づいた的確な記述が求められます。私たちは「ノンフィクション作家」でなければなりません。申請書として客観的かつ簡潔に、生物統計学に基づくデータを用いて作成します。また、臨床試験結果は症例数の限られたデータであることから、上市後の安全性を100%保証することはできません。このため、同種同効薬のデータに基づいた予測されうる副作用などを検討して記すこともあります。CTDは数百ページに及ぶ専門的な文書なので、作成には薬剤師を始めとする複数の者が数カ月間携わり、作成の報酬は数百万~数千万円とさまざまです。

Q:もともとは医師を目指していたとか?
A:そうですね(笑)。親戚の影響もあり、学生の頃は医者になることを志望していましたが、受験にやぶれ滑り止めで受けた某大学の薬学部へ進学しました。振り返ると、これも今の仕事へ通じる道すじが引かれていたのかもしれません。

卒業後は製薬会社の研究所に入社し2年。その後製薬会社の臨床開発チームに転職しました。当時はまさに遺伝子組み換え製剤など画期的な開発が続いていた時代です。ここでの経験はとてもおもしろく、CTDを作成する私のキャリアの土台になりましたね。独立して大手製薬会社から依頼を受けるようになった今、学会をリードする研究者や医師とつながりを持てることに、ただただ感謝の想いです。

Q:日本の生殖医療の中で画期的なイベントにも貴社が関与されたそうで。
A:2018年、日本産婦人科学会が受精卵の遺伝子検査「着床前診断」を解禁したニュースは、メディアでも取り上げられご存知の方もいらっしゃるでしょう。弊社は当該臨床研究のパイロット試験のプロトコール作成および臨床データの集計作業を受託していましたが、これらの文書作成業務の大半は香港で実施したんですよ。日本の生殖医療のあり方を左右しかねない重要な臨床研究が、香港と東京を結んで行われていたことを知る人は少ないかもしれませんね。

Q:最後に今後の展望をお聞かせください。
A:日本の高度な素材製造技術が集約されたナノシートを始めとする医療用具を、世界に展開していきたいですね。ナノシートは早稲田大学理工学部で開発された素材であり、臓器癒着防止目的以外にも応用範囲の広い素材ですので、Hong Kong Science & Technology Parks Corporation(HKSTP)とコラボできる余地を検討するなどして、日本の大学発技術の商品化をさらに進めたいと思っています。
「人材を大切にして、決して手放さない」これは弊社のモットーです。弊社のスタッフはほぼ創業時から変わらぬ20年以上の古参兵。これからも勤続年数と比例して蓄積したノウハウとともに、業界の先駆者として頑張りたいですね。

大学での講義の様子

大学での講義の様子

株式会社メディライト
製薬会社出身の代表取締役・幕田氏によって2002年に日本、2017年に香港で創業。医薬品・医療機器の申請書および臨床論文作成のほか、香港を拠点に日本の医療関連技術および商材の海外展開を目指している。
http://mediwrite.life.coocan.jp

 

教えて!総経理!第12回目  
大幸藥品(亜洲太平洋)有限公司 李少程氏
のインタビュー記事は
こちら
Pocket
LINEで送る