アナシス人事労務誌上相談「名ばかりのマネジャーがいるのですが?」

2024/11/13

Vol.81240216 YK問い:タイトルだけマネジャーで、特に管理職の仕事はさせていません。しかし給与はそれなりに高いのです。どう考えれば良いのでしょうか?

黒崎:管理職の職務を遂行していない・できないマネジャー、「名ばかりマネジャー」問題ですね。
日本にも管理職としての権限や責任がまったくなく、かつ残業代を出さないための「名ばかり管理職」という問題があります。そもそも英語のManagerと日本語のマネジャーでは意味が随分違って捉えられていると思われます。英語でManagerは管理職ですが、日本では会社によっては係長や主任までも含まれることがあるのです。まずこのマネジャー=管理職の自社での役割と責任の定義をしっかりとすることが求められます。

日本の賃金は低いと言われ、そこへ円安の影響もあり、現地管理職の給与が高すぎるのではと言う声があがって久しくなりました。香港の現地管理職の月給は現在のレートで円換算すれば65万円から80万円程度になります。これに2ヵ月分の賞与があるとすると年収910万円から1,120万円となりますが、数字を聞くと驚く本社の人もいるでしょう。現地の住宅費や物価、そして管理職の市場価格で考えれば、香港では驚く数字ではありません。中国のそれも随分上がってきています。
給与が「高い低い」は主観的であり、市場価格もありますから、先ほどの給与であっても管理職層の仕事をしてくれていればいいのではと考えます。しかしその給与で部下評価さえ職務としていないマネジャーが存在するのです。

なぜ当地で名ばかりマネジャーがそんなにも存在するのか。多くの日系企業では年功でタイトルを与えてきた事例が見られます。タイトルインフレする当地では、その人に実力がなくてもタイトルを与えてきてしまったという背に腹は代えられない事情もあったことでしょう。それにプラスして、駐在員達には結果を出すことを優先せざるを得ない本社からのプレッシャーもあったはずです。明確な役割と責任を与えず、また管理職育成も十分に行えずに結果を優先させてきた背景は少なからずあることでしょう。それは現地マネジャー達が責任感やリーダーシップを発揮させる機会を奪うことにもつながったのではと推察できます。

しかし現実を見てみれば、たとえ役割定義をしたとしてもその実力のないマネジャーは沢山いるでしょう。「すぐにリプレイスする」という前に、まずはやはり管理職の役割と責任の明確化と育成を考えることになります。それにはその上である駐在員を含めた現地経営層自身が管理職の役割を理解し、現地マネジャー育成が任務であることを自覚して計画・遂行していくことが重要です。そのプロセスは、
(1)役割・責任の定義
(2)現状のアセスメントとそのフィードバック
(3)トレーニングとサポートの提供
(4)役割の再検討(専門職配置転換・リプレイスなど)
これらの公正なプロセスを予め検討しておくことになります。マネジャー・リーダー育成が組織文化となっていくように経営層がリーダーシップを発揮せねばなりません。「管理職研修」などだけでマネジャーが育つとは思えません。

さて言うは易しですが、彼らに出来ないことを要望しても、そう簡単にできるようにはなりません。管理職の職務の中で彼らが出来ないことの多くはタスクマネジメントのうちの目標設定・計画立案の部分、およびピープルマネジメントでしょう。前者はやらせてこなかったが故であることが多いはず。年間計画は難しくても、小さなものからアサインしていく必要があります。問題は後者の人のマネジメント。なかでも難しいと思われるのが建設的なフィードバックです。そもそも日本人経営層も苦手としているものかも知れません。最初のうちは一緒にやっている方も多いようです。現場のマネジャーには日々の事実を記録してもらい、フィードバックそのものはその上の上司が一緒にする。こうしたマネジメントの障害を取り除いてあげれば、できるところから管理職の職務が出来るようになっていく可能性があるはずです。

それでもリプレイスがベターというケースも少なくありません。そのデメリットとしては人材確保の難しさ・現場の不安と混乱・人材とノウハウの流出といったものがあります。ですが、機会を与えたうえでのリプレイスの時期に来ている組織も多いはず。先送りすれば経営トップこそが「名ばかり経営者」となってしまうことには注意と覚悟が必要です。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して2016年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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