目から鱗の中国法律事情「中国の治安管理処罰法改正 その2」
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Vol.95 中国の治安管理処罰法改正 その2
前回から、中国の治安管理処罰法改正について見てきました。今回は、治安管理処罰法改正の重要ポイントとされている「中華民族の感情を傷つける」罪と、未成年者の非行行為に対する措置について見ていきます。
「中華民族の感情を傷つける」罪
2023年9月1日に公開された治安管理処罰法の改正案には、「公共の場所において中華民族の精神を害し、または中華民族の感情を傷つける衣服や標識を着用し、あるいは公共の場所で他人に着用を強制すること」を罪とする規定がありました。しかし、意見公募がなされている際に、この規定は非常に主観的で、どのようにも解釈しうるとして強く批判を受けることとなりました。その結果、「中華民族の感情を傷つける」という表現はされなくなり、イベントのテーマや雰囲気に反する行為を意図的に行うこと、国家が重要な活動を行う場所において制止に耳を貸さないこと、といった表現に修正されました。
未成年者の非行行為に対する措置
中国当局の発表では、未成年者の非行行為の件数が増大しているとされています。これに対応するために、未成年者に対する矯正・教育措置を講じなければならないとの規定が追加されています。さらに、これまで、未成年者に対しては教育などを行うこととされていましたが、特に14歳未満の者であっても、常習的に非行行為を行っている場合、警告や罰金などの処罰をするべきではないかとの意見も出ています。
これらの治安管理処罰法は、まだ改正案段階で議論が継続しており、完成した法律ではありません。2024年7月27日締切で2回目の市民からの意見公募も行われていたところで、これからさらなる法案の練りこみがなされるでしょう。しかし、概ね上記の2点が大きな改正として話題になっているところです。
この大きな改正である2点は中国在住の日本人には大きな影響はないとは思いますが、日本でいう軽犯罪法である以上、その他の改正部分などについては、思わぬ行為が処罰対象になるよう改正されていたということもあり得ます。
改正の議論が終了して、法律として公布されたら、しっかりと念のため確認をしておきたいものです。
〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi