日本の新常識!?【退職代行】とは?
香港に限らず、世界中のどの国でもあまり見られないような事業が、いま日本で躍進を続けているという。「退職代行」だ。その名の通り、会社を辞めたい人に代わって企業側に辞職の意思を伝える代行サービス。2018年ごろに現れた業種だが、すでに大企業の約2割が経験しているといい、社員の退職代行利用が広がっている。では実際、どのような人が、どういった理由でこのサービスを利用しているのだろうか。「退職代行モームリ」を運営する株式会社アルバトロスの大山氏に、その実態について話を伺った。
辞めたいと言えない従業員、辞めさせてくれない会社
‒‒‒‒ 退職代行とは具体的にどのようなサービスなのでしょうか。
民間運営や弁護士運営の会社もありますが、モームリは労働組合と提携した運用サービスになります。本人に代わって退職の意思を伝えるのが退職代行の基本ですが、弊社では貸与物の返却、私物の郵送依頼、必要書類の確認などアフターサービスも行っています。
‒‒‒‒ 本人が意思を伝えられないという以外に、「辞められない会社」というのがいまだにあると聞きました。
確かに、辞めたいと伝えても辞めさせてもらえない会社はまだ多いですね。過去には「辞職の意思を何度伝えても退けられてしまい、ついには土下座までして訴えたにも関わらず拒否された」という事案や「退職届を提出した際にその場で破り捨てられた」という方もいらっしゃいました。
‒‒‒‒ そういった場合、退職を拒否されても出社しないという手はないのですか?
本来、退職は労働者の権利であって会社側は拒否できないのですが、上手く話が収まらないまま辞めると、場合によっては退職手続きを取ってもらえないという可能性はありますね。親御さんに連絡がいくことを嫌がる方もおられますし、無断欠勤扱いにされて最終的には懲戒解雇という流れになってしまうこともあります。
‒‒‒‒ なかには会社側が全く悪くないケースもあると思いますが…。
はい、そのため弊社では依頼を全てお受けしているわけではありません。事前にきちんと確認をして「この内容であればご自身で対応したほうがいいのではないか」とお話しさせていただくこともあります。勤務先に聞いてみると、依頼者の話と会社側が感じている内容に齟齬(そご)があり、これであれば介入する必要はないと判断することはよくあります。
1日300件の問い合わせが来ることも…。
どんな人が利用する?
‒‒‒‒ どのような人からの依頼が多いのですか?
ご利用いただいているのは20~30歳代の方が約7割で、男女比は同程度です。40歳代以上の方も一定数おり、過去には70歳の方の対応もさせていただきました。また業種としては接客・サービス業が最も多く、3割ほど。製造業、医療関係、教育関係の方も多数いらっしゃり、勤務時間がばらばらで長時間労働が発生しやすい職場の方からの依頼が多い印象です。
‒‒‒‒ 1日あたりどれくらい対応されているのですか?
ご依頼をいただくのは月曜日が多く、対応数は平均して150件を超えますね。それ以外の平日は60~80件程度です。問い合わせだけですと、その倍はあるでしょうか。今まで最も問い合わせが多かった日は300件ほどで、そのうち約180件に対応しました。
‒‒‒‒ そんなに毎日依頼があるのですか…。新社会人の利用者率も高いと伺ったのですが。
新卒の方の割合は特に4~5月に多く、15%ほどになります。入社式のあった今年の4月1日は、4名の新入社員の方から問い合わせをいただきました。美容関連の職種の方からは「頭髪は自由だと聞いて入社を決めたのに、髪色が明る過ぎるから入社式に参加させないと言われたので辞めたい」とご相談がきました。
隣の芝生が青く見えるSNS世代
‒‒‒‒ 香港では転職を繰り返すのが一般的なのですが、日本の若い人は早期退職についてどういう考えを持っているのでしょう?
終身雇用や長く勤めたほうがいいと考える管理職クラスもまだいますが、若い世代はそのようなことはないですね。仕事に注力するよりもプライベートを充実させたい考えの人は増えており、勤務時間の改善を望んで転職する方が多いと感じています。特に今はInstagramやXなどSNSで同年代の人の働き方が見えてしまうので、自身の状況と比べることによって、もっといい労働スタイルがあるんじゃないかと退職を選ぶ方が多くいます。
‒‒‒‒ 利用者が増えている一方で、否定的な意見もあると聞きます。
そうですね。特に上の世代では退職代行にあまり良くないイメージを持たれている方もおり、時に厳しい言葉を受けることもあります。弊社からご連絡すると9割の会社には事務的に対応してもらえるのですが、法律を熟知されている大企業と違い、社長が全ての人事権を握っているような小さな会社のなかには「なぜ自分で言わないんだ」「ここまで良くしてきたのにこんな辞め方は非常識だ」などとおっしゃる方もいます。また相談者のなかにもご自身の口で直接伝えたいという方もいるので、そういった方には自分で退職を確定させるサポートサービス「セルフ退職ムリサポ!」をおすすめしています。
退職代行に続く、まったく新しい代行サービスも
‒‒‒‒ 退職代行とはまったく別に、「検索代行モーシラン」という代行業務もされているとか。どのようなサービスなのですか?
これは、わずらわしい情報収集を代行し最短30分で提供するサービスです。ChatGPTなどは誰が調べても同じ内容で返答がきますよね。モーシランの強みは、依頼者から詳細な内容を伺った上でその方にあった情報を収集できることにあります。
‒‒‒‒ あまり聞き慣れないサービスですね。
クラウドソーシングなどを通して個人で依頼を受けている方は数名いらっしゃるようですが、私の知る限りでは企業としてこういったサービスを提供している会社は弊社だけです。
‒‒‒‒ 今まで変わった依頼を受けたことはありますか?
一番苦労したご依頼は「仮面ライダーに出演している俳優が着ていた衣装と同じものをどこで購入できるのか調べて欲しい」というものでした。依頼者からいただいた画像をもとに、テレビの制作会社のほか、その俳優さんの事務所やSNSなどにアプローチして情報をもらい、最終的に3日かけて探し出すことができました。
検索代行は、日本のサイトで検索ができる内容でしたら香港からでもご依頼可能ですよ。
退職代行の膨大なデータを活用したコンサル事業構想
‒‒‒‒ ホームページを拝見しましたが、若くて勢いのある企業だという印象を受けました。
社長と私は35歳ですが、そのほかの社員はほぼ20代で、全体で40名弱おります。今年4月ごろからメディアに多く取り上げられたことで利用者が3~4倍と急激に増えたため、ひと月に10名のペースで社員を増やしました。私が入社した2022年11月当時は5名ほどでしたので、自分でもまさかここまで大きくなるとは…という思いです。
‒‒‒‒ まさに急成長中ですね。今後はどのような事業展開を考えていますか?
将来的には人材会社として退職から次の入社まで関われる企業になりたいと考えており、転職支援事業も行っています。退職したくてもできないと困っている方をサポートしたい、逆に企業側に対しても退職者で困らない会社になってほしいという思いで、これまで退職をサポートしてきた15,000人のデータベースを活用したコンサルティングサービスをスタートさせる予定です。
退職代行モームリ
www.momuri.com