知らないと怖い!専門家に聞いたMPFあれこれ
Vol.2 2025年予定の制度改革における変更点
前回の記事に続き、今回も香港の年金制度MPF(強制積立金)についてのお話です。
高齢化対策として、2000年から香港で強制導入された当制度について、施行から25年目を迎える来年5月に大きな制度改革が予定されているのをご存じでしょうか。
従来、会社都合で解雇する際に従業員へ支払う「解雇補償金」或いは「長期服務金」の原資として、会社側が従業員のために拠出してきたMPFの積立分を相殺することが制度的に可能になっていました。この相殺制度を利用することで会社側の経費負担を大幅に軽減できるというメリットがありましたが、一方で老後の蓄えを準備するためのMPF積立金の一部が解雇補償という別項目の支払に充てられるという点について、従業員側からは不満や批判の声が上がっており、これまで労働界から政府に対し制度改正を求める働きかけが続けられてきました。
制度改正については財界側からの強い抵抗があり、最終的に6年半の長い議論期間を経て、2022年6月に前行政長官のキャリー・ラム氏が相殺制度廃止法案への署名を行い、2025年5月1日以降この制度が廃止されることが可決されました。当時、労働福祉部長官がこの決定を歴史的瞬間であるとまで述べたほど政府にとって大きな決断となり、メディアでも大々的に取り上げられました。
これは事実上従業員にとっては、大きな待遇改善となり、喜ばしいニュースですが、一方、企業にとっては経費負担の大幅増を招き、ひいては企業の競争力を弱めることになりかねないということで、中小企業が主流を占める香港の財界側からは不安や不満の声が上がっています。
ただ、企業へ与える経済的影響は当面は限定的なものとなる見込みです。法案では、相殺不可の対象となるのは施行後の雇用期間に積み立てられたMPF部分のみで、施行前までに積み立てられたMPFは引き続き相殺可能となっていること、また、施行後25年は適応期間として政府から補助金が給付されるというのがその理由です。この補助金については、政府が約332億香港ドルという多額の予算をすでに計上し企業を手厚くサポートすることがすでに決まっています。そして、25年に渡って段階的に雇用主負担部分の割合を増大させていくことになっているため、施行直後の経済的影響は最低限に抑えられることになる見込みです。イラストは施行直後の3年間の政府補助と自己負担の比率を示しており、単年で従業員に支払う補償金がHKD50万以下の場合、企業の自己負担は年間HKD3,000(または50%、低いほう)が上限となっており、非常に低い額に抑えられています。
従業員へ支払う補償金額や企業の自己負担額についての具体的な計算方法は、政府労働局や、MPFプロバイダーのウェブサイトに専用の計算ソフトが用意されています。現段階では規制廃止後の基本概念を理解し、必要な社内体制の準備をすすめておくことをお薦めします。
新制度に関してのご質問等は、香港政府から認可を受けたMPF仲介者資格を有する著者までご遠慮なくお問い合わせください。弊社ではMPF企業向けセミナーや情報提供も随時実施しています。
Vol.1 積金易 EMPF
香港の退職年金制度MPFが施行されて24年目を迎えた今年6月、政府主導のスマートデジタルプラットフォーム「積金易(eMPF)」サービスが段階的にスタートすることになりました。 これは、従業員と雇用主の両方が利用できる集中型専用プラットフォームで、MPF関連のすべての情報を一つのシステムにリンクさせ、事務作業を電子ベースで行うことで、作業効率の大幅なアップを目指すのがねらいです。政府はこのシステムに約33億香港ドルの予算を投じ、9年がかりで構築を進め、今年やっと運用開始に至りました。今後10年間で約300~400億ドルの経費削減が可能という試算を政府は公表しており、それに伴い、従業員が実質的に負担しているMPF手数料も段階的に下がっていく見込みです。
システムへの登録が必要な対象者はMPFに加入している全ての企業と従業員で、期限前までに新システムへの登録とデータ移行が必要になります。政府ではこれを「革命的な変革」と形容していますが、実際には今年6月からすでに移行を始めた企業や従業員からは、システムの不具合や、事前の告知やフォローアップ体制の不足等、クレームや混乱を訴える声が多く寄せられているということです。
政府側は混乱リスクを最低限に抑えるため、加入者の多いプロバイダのシステム移行期日を2025年第3~4半期の最終段階まで先送りし、小規模プロバイダから前倒しで運用開始するという措置をとっています。
移行前後の混乱を避けるためにも、特に従業員が100名を超えるような大手企業では移行の約1年前から以下のような段階的準備をすすめておくのが理想的です。
段階1:(移行の約1年~半年前):認知期間→システム移行の期限はいつなのか確認、必要な作業や担当責任者の任命等を実施
段階2:(移行の半年前~1か月前):準備期間→移行データの準備、従業員への告知とトレーニングの実施
段階3:(移行の1か月前):過渡期→システムへのログイン、データ移行、従業員の登録、初回拠出の実施等
段階4: 適応期間→不備の調整、従業員サポート等
また、これらの一連の作業においては、契約しているプロバイダからの情報提供やシステム面での技術支援サポートも重要な要素となります。資金が潤沢な大手では、政府システムと互換性のある自社システムの構築を、政府からの情報提供により早い段階から進めており、すでに運用を開始しています。サポート体制がしっかりしている点、互換性のある独自システムを先行投資している点、また、移行までの期間が最も長く設定されている、という点において大手プロバイダに優位性があるかと思われます。
最終的に経済的なメリットの大きい新システム。移行期間の混乱を乗り切れるよう、早めのアクションをお薦めします。
弊社ではMPF企業向けセミナーや情報提供も随時実施しています。また、新制度に関してのご質問等も、香港政府から認可を受けたMPF仲介者資格を有する著者までご遠慮なくお問い合わせください。
著者プロフィール:
平原奈津子(ひらはらなつこ)
新田綾(にったあや)
香港でMPFマーケットシェアNo.1のマニュライフ香港にて企業向けMPF、団体保険や、個人向け保険の仲介業務に従事。お客様に寄りそうきめ細やかなサービスをめざし、日々奮闘中。
連絡先: Manulife International Ltd.
電話:852-9722-0012(平原)または852-9272-0061(新田)
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