アナシス人事労務誌上相談「パワハラと指導の違いとは?」

2024/09/18

Vol.79240216 YK問い:駐在員の指導の厳しさで人が辞めることが気になってます。パワハラと指導の違いとはなんでしょうね。

黒崎:ある県知事のパワハラ疑惑が日本でニュースになっています。その県知事も指導だと言い張っています。現在調査が進んでいるところですが、どうも本人には自覚がないように見えます。

パワハラ関係の文献・事例を見てもパワハラ加害者側には自覚がほとんどないことが記されています。しかもパワハラ行為が業績をつくりあげていることで、加害者が生き延びていく組織も多いのです。前回のご相談でも書きましたが、当地においてはパワハラを直接取り上げた法令・条例はありません。かといって、名誉毀損その他民事で争われることもあり得ます。

一般的なパワハラのデメリットは当地ではまずは離職です。リプレイスすれば、ばかにならない採用費がかかります。育成の費用もかかってきたことでしょう。蓄積された知識・ノウハウ・経験を失うことの経済的損失は誰の責任となるのでしょうか。このことを安易に見て、中国・香港では人が辞めていくだけだからと高を括るのはやめたいものです。

それでも「こんなことも出来ない人材は辞めて当然」「そもそも採用ミスだった」といった発言で、パワハラ加害者を擁護するケースも見受けられます。採用ミスも多数あるのが現実ですから、パワハラだけの問題ではないかも知れません。それでも安易な採用をした責任を人事だけに押しつける事も問題です。

さて、多くのパワハラ加害者はその目的の正当性を主張します。目的は正しく見えても、その手段・行為に妥当性が見られないのがパワハラです。ご質問の「指導とパワハラの違い」を、人事院作成の公務員向けのハンドブックを基に書き換えた表を右記に作成しました。こうした知識の学習をしても、その違いは完全には区別できないでしょう。そして加害者に自覚がないのがパワハラ問題の根の深さです。

マネジメントと一言でいっても、そこにはリード・(狭義の)マネジメント・コントロールという3つの領域があります。人の感情として、コントロールされたいとは思わないものです。マネジメントもあまりされたいとは思わないでしょう。それでもリードして欲しい欲求はあるものです。リードとコントロールは違うものです。

パワハラ加害者はコントロールしたい欲求が強すぎるのだと思います。自分の思うように相手をコントロールできないとパワハラしてしまう。自分の置かれた状況に余裕がないと、ついつい言動が過激になっていく。ストレスが強い状況下や、睡眠不足などでも言動が過激になっていきます。アナシス

残念ながら人は権力を持ち、優位性を持つと横柄になっていくと言われています。「実るほど、こうべを垂れる稲穂かな」と、散々教育されてきたはずでも、謙虚さを持つのは難しいもの。ポジションに与えられた業績のプレッシャーもあいまって、人を動かそうとしてしまう。動かそうとすること自体は、人のマネジメント上必要なこと。しかしそれが「コントロール型」だとパワハラになりやすい。相手を人として尊重することが忘れられていくのです。

「あの時、厳しく指導されたから今の自分がある。だから部下には厳しく指導するのだ」と、自分の行為を肯定するマネジャー。確かにそれで育った人もいるかもしれません。私もそう考えて厳しくやってきた1人です。しかし、部下への愛もあって共感性も高いマネジャーでさえ、やり方は間違うこともあるのです。

ダイバーシティ&インクルージョンが重要な時代。多様性を理解・受容し、寛容であることも求められます。「対策」ではなく、「予防」の観点で、よりよいマネジメントを考えていく必要があります。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して2016年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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