アナシス人事労務誌上相談「香港でパワハラは問題ですか?」

2024/08/14

Vol.78240216 YK問い:弊社のローカルマネジャーが部下から評判が悪いのです。失礼なものの言い方をすると。香港にはパワハラ規定がないと聞きましたが?

黒崎:香港にも中国にも、労働関連法においてパワーハラスメント(以下パワハラ)を直接取り上げた法令・条例はありません。しかしながら昨今、日系企業においてこのテーマのご相談が増えております。香港でもパワハラは問題なのです。日本においてはパワハラ防止対策の義務化から4年経ち、当地においてもたとえ法令にはないとしても、ハラスメントがもたらす悪影響を考えればしっかりと考えるべきです。

そもそも何故当地でパワハラがあまり取り上げられてこなかったかと言えば、転職してしまえば逃げられるというのがその理由の一つでしょう。人材流動性が高く、我慢する必要のない当地と、極論すれば我慢があたりまえだった日本とでは背景が違いました。従業員のリテンション対策としても、より生産性を向上させるためにもパワハラ防止対策は重要です。

法令がない以上当地での定義もありませんが、「パワハラ」と言う言葉からイメージされる内容が人によって違うこともこの問題の深さを表しています。

私はハラスメント防止の研修や、パワハラ加害者へのコーチングも行ってきました。そこで感じるのは、ほとんどの加害者に自覚がないことです。ある専門家は加害者に自ら気づいてもらうことを求めるのは幻想だと言い切ります。他者の感情を読み取ることが苦手な人は自分のパワハラには気づきにくいのです。

パワハラをしているのに組織に残れる人達も少なくありません。そんな人は業績を出していて社交的で上層部から評価されやすい傾向があります。こうした人がパワハラだと言われると、「被害者側の問題なのでは?」と思われてしまう。短い時間しか関わらない人からは評判が良く、密に関係する人からは評判が悪い。こうした加害者、パワハラ上司を生き残らせる組織は腐っていきます。

中国・香港においても典型的な専制型パワハラ上司は、自分は正しいと思ってポジションパワーを使って部下をコントロール、しかも部下を成長させているという驕りもあって自分の指導の正当性を主張します。部下への要望性が高いので、それがパワハラになっていきます。しかしこの破壊的リーダーシップを成立させるのはこのパワハラ上司の存在だけではなく、フォロワーの存在と職場環境の三つがそろう必要があります。フォロワーにもだんだんと病んでいく同調型フォロワーと、パワハラリーダーと結託する共謀型フォロワーがおり、どちらも悪玉フォロワーと呼んでおります。

残念ながらというか、この専制型パワハラは短期的には業績が上がりやすい。だから生き残りやすい。しかし長期的には部下達のパフォーマンスは落ちます。続かないのです。しかしその途中のプロセスではパワハラ上司は、自分のリーダーシップは正しく効果的だと勘違いしてしまうのです。

駐在員の中にもこうした専制型リーダーは時折います。かく言う私が恥ずかしくもそのタイプでした。厳しくやっても人がついてきてくれていれば、業績はあがりました。しかし共謀型フォロワーが私の真似をして正論をふりかざすとき、それがパワハラになっていきました。経営者が「情と理」を持っていたとしても、マネジャーが論理だけで押していけば人は去ったのです。それも経営者であった私の責任でした。

そしてこの専制型リーダーの上の上司が放任型だと、パワハラ的言動が許されるという文化になっていきますのでこれも非常に危険です。ローカルマネジャー達は放任型も専制型もいます。彼らの専制型パワハラを黙認してはいけないのです。そうした放任型リーダーもパワハラを生む土壌をつくってしまいます。

もうひとつ危険なパワハラのタイプがあります。リーダーの研究で著名なモーガン・マッコール教授が脱線型と命名したものです。パワハラしやすいタイミングは二つあって、一つはストレスが高い時、もう一つが新しくパワーを得た時と言われています。新しいポジションについた途端に、これまでは良かったのに脱線していく。思ったように部下を率いることができず成果が出せない。新しい意見を取り入れず自分の古いやり方を強制し、部下をコントロールしようとする。上へは機嫌をとり、部下には時間をかけない。こうして典型的なパワハラの言動が出てきます。さらにそこに当地における世代間ギャップの問題が加わります。中高年が若い世代を理解せず、汚い・きつい言葉でコミュニケートするなどという状況が起こっているのです。

組織の生産性を向上させ、適する人材が残るためにも、しっかりとハラスメント対策をとっていく必要があります。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して2016年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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