メディポート健康コラム:薬として利用された珈琲
駐在員として香港に赴任してきた30数年前、街中にコーヒーショップはまったくありませんでした。香港人は珈琲を好まず、基本的に飲まないものと思っていました。もちろん当時もお店で珈琲がまったく飲めなかったわけではありませんが、街中の小さな飲食店で注文できる珈琲は砂糖とミルクがたっぷり入って、およそ珈琲とは言えない飲物でした。しかし紅茶は当時も意外にもおいしく飲めたので、やはり香港は英国の植民地であるだけに人々には紅茶が好まれるようになったのだと勝手に納得したものです。珈琲好きの私としては、外出先で「珈琲」と呼べるものが飲めるのはホテルのレストラン程度でしかなく、それも値段が高いだけで御世辞にも美味しいとは言えない代物でしたから、余程のことがない限り外で珈琲を飲む機会はありませんでした。そんな香港にも90年代後半に珈琲チェーン店が現れました。その店舗数は瞬く間に増え、気が付くと香港の人々にも珈琲を飲む習慣が根付いていました。それは寿司を食べなかった香港人が、その美味しさに目覚めていったのと時系列がほぼ重なります。
私は、珈琲の生豆を自分で少量焙煎して淹れるのを趣味としており、香港で珈琲が飲めなかった時代でも満足できる美味しい珈琲を楽しんでいました。現代のように香港中どこに行ってもそれなりの珈琲を楽しめるばかりか、その道のプロも現れて世界に通用する珈琲が香港でも飲めるようになるとは、昔は想像すらできなかったものです。
さて、そんな珈琲も大昔は薬として利用されたり、宗教儀式で飲まれたりしたものです。それは珈琲に隠された様々な薬理作用を知らずに利用していたものです。
珈琲の歴史
「ある時、低木に実る赤い実を食べていた羊が興奮状態になったのを羊飼いが見て、自分もその実を食べてみた」というのが、ひとが珈琲を利用するようになったきっかけだという伝説があります。しかし、ひとが珈琲と出会ったきっかけには諸説あるものの、このようなお話には少々無理があるような気がします。私たちが飲む珈琲はその種を乾燥させて焙煎し、さらに細かく砕いてお湯で抽出したものです。つまり珈琲の主な薬理作用は種そのものにあり、羊が食べていた赤い実、つまりコーヒーチェリーを食べたところで、消化できない種にある薬理作用が羊に現れるとは考え難いからです。
私はニューギニア高地のコーヒー農園でコーヒーチェリーを食べてみましたが、甘い果肉で決して悪い味ではありませんでした。ところが過食部分があまりにも少なく、チェリーとはいえ果物としては扱えないものでした。このコーヒーチェリーの皮と果肉を乾燥させてお茶にしたものもカスカラティーなどと呼ばれて、中東やアフリカで古くから飲まれています。
ところで医師が珈琲を利用したという記録は10世紀のアラビアに残っており、当時は珈琲豆を焙煎することなく砕いてその煮出し汁を患者に飲ませていたそうです。このころには珈琲の利尿作用や強心作用が判っていたようです。
珈琲豆を炒るようになったのは13世紀ころのようです。おそらく何らかの理由で焦げた珈琲の香りに魅せられたのではないでしょうか。その後珈琲は嗜好品として定着しますが、現代でもその健康に関連した効能について語られることが少なくありません。その効能をもたらす成分の代表がカフェインとクロロゲン酸です。
カフェイン
珈琲に含まれる成分としてあまりにも有名なカフェインですが、その名前の通り珈琲豆からドイツの化学者が約200年も前に単離することに成功しました。このカフェインは精神刺激薬であり、その覚醒作用は誰もが知るところです。その他にも薬理学的に解熱鎮痛作用や利尿作用、あるいは強心作用が認められるので、カフェインの存在を知らなかった時代でも、経験的に珈琲を薬として利用していたことが理解できます。またその精神的作用を利用して宗教的利用もされました。現在は珈琲を薬のように扱うことはありませんが、眠気覚ましを期待したりして仕事や勉強の合間に飲むことも少なくありません。
注目のクロロゲン酸とは
ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸は抗酸化物質として働きます。糖尿病リスクを低減したり、ある種のがんのリスクを低くしたりするといった多くの論文が発表されており、その作用が公式に認められています。ただし、残念なことにクロロゲン酸は熱に弱く、珈琲を焙煎するとかなり失われてしまいます。その意味では、大昔に珈琲を焙煎することなく生豆を砕いて煮詰めて薬として飲んでいたのには経験的ではあるものの合理性があります。
珈琲は薬ではない
コーヒーの効能を語るものもいれば、反対に不眠症や神経症の原因になるなどその陰の部分を強調する人もいます。医薬品のように作用と副作用のような硬い話をするべきものではありませんが、珈琲に人々が惹かれたのは、その薬理作用にあるのは間違いありません。しかし、カフェインに限りませんがその作用に期待などせずに、純粋にその香りと味でリラックスできるのであればそれ以上のものは無用です。寒くなると珈琲の暖かさが身に沁みますね。暖かい部屋で、珈琲が栽培されている遠い国、その農園で珈琲の実を摘む人たちを思い描いて飲むのも楽しいものです。
藤田医科大学卒業。臨床検査技師。
日本医科大学付属病院勤務の後、青年海外協力隊に参加し、南太平洋ソロモン諸島ガダルカナル島に2年間派遣される。世界保健機関WHOのプログラムの下でマラリア対策プロジェクトに従事。帰国後に就職した巡回健診事業を行う会社にて香港に赴任。健康に対する自身の理念を実現するため、1999年3月メディポートを設立し現在に至る。
医療・健康の総合コンサルタント Mediport International Limited
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