和と洋の手料理「おばんざいキッチン道」広州市天河区

2014/05/07

 

キンピラに滲み出る19歳で修行を始めた若きオーナーシェフの真摯な想い。

文…鳥丸雄樹

おばんざいキッチン道

中信広場を望むホテルの部屋へ戻り、夕日に照らされた体育学校のグランドで整列をしている学生達をぼけっと眺めていると携帯が鳴った。画面を見ると某フリーペーパーの営業マンUさんからだった。「鳥丸さん、準備できたら下に降りてきてくださいね。」今日も彼が美味しいお店に連れていってくれることになっている。ロビーで落ち合い、タクシーに10分くらい揺られて、天河北路と龍口西路の交差点で降りた。
一方通行の道を逆行する形で歩いている時に坊主頭の彼が言う。「この前、あのマンションの中にあるインド人がやっているカレー屋に行ったんですが、結構美味しかったですよ。まあ、今日行くところはそこではなく、和食屋ですが。最近、広州の駐在員にどこが美味しいって聞くと、そのお店の名前が挙がることが多いんです。」そんな会話をしていると目の前に”パンの中村屋”という店が現れた。「あれは香港人老板がやっているパン屋です。あの隣にあるのが今日のお店“おばんざいキッチン道”です。」ひっそりと品の良い門構え。外から小窓で中を覗きながら「オーナーさんいるかなぁ」とUさん。ザンギとスープ
店のドアを開けて店内に足を踏み入れると、細長い店内は奥まで一枚板のカウンターが続いていた。カウンターで寛ぐひとり客を横目に、店員さんに促されるように2階のテーブル席へ。いつもながら、「”とりあえず”はいいかな」と最初から焼酎ロックのUさんと、まずは生ビールの私とが乾杯していると、隣の席に見覚えのある顔が座った。物流会社のSさんだった。「おお!Sさん、ご無沙汰しております。お元気ですか。上海に転勤されたと聞いていましたが広州に戻ってきていたんですね。」「鳥丸さん、ご無沙汰してます。上海??それは僕ではないですね。誰かと勘違いされているのでは?」「あれ、そうでしたか。失礼しました。」そんな会話にUさんが入ってきた。「Sさん、こんちはっす。先日はどうも。鳥丸さん、さっきのカレー屋は実は彼と行ったんですよ。」どうやら2人は知り合いだったらしい。話しをすると、Sさんは北海道出身で、おばんざいキッチン道のオーナーさんも同郷ということで、頻繁にこの店に通っているそうな。「鳥丸さん、ここはね、おばんざいのお惣菜はもちろんのこと、オーナーが北海道出身ということで、真ホッケの塩焼きと日本酒の男山を出してくれるんですよ。北海道者には嬉しい限りです。」Sさんの言うように真ホッケを頼もうとしたが、どうやら予約しておかないと食べられない裏メニューらしい。次回は必ず予約をしようと思いながら、看板メニューであるお惣菜の盛り合わせと、北海道名物の鳥唐揚げ”ザンギ”を注文した。
運ばれてきたお惣菜の盛り合わせは器も盛り付けも美しい。南蛮漬けにするか、ヒジキにするか目移りしてしまうが、まずはキンピラに箸をつけた。キンピラを一口食べて納得。どうりで駐在員に支持されるわけだ。旨くて自然と笑顔がこぼれた。「広州にもこんなお店ができたんですね。」Uさんに思わず話しかけた。Uさん曰く、料理人であるオーナーさんは19歳で東京や九州に修行へ出たそうだがキンピラを食べただけで、料理の基礎がしっかりしているのが、良く分かった。そして、南蛮漬けもヒジキ煮も広州にいることを忘れてしまうほど和の味なのである。ザンギもホクホクと頬張ったが、ジューシーな鶏肉と上質な油の香りに酒が進む、進む。店の謳い文句には「馴染みの『和風』手料理に『洋』を取り入れひと工夫」とあるが、洋食メニューのポワレも注文してみた。白身魚が新鮮でバルサミコ酢のソースと添えられた野菜とマッチし、これまた旨い。冷凍ではこの白身魚のプリプリ感は出せまいとオーナーさんに聞いてみると、日本からの食材はもちろん、手に入らない物を求めて、深セン市は蛇口の市場まで足を運ぶというから恐れ入る。
宴もたけなわとなり、オーナーさんに見送られて外に出た。雨模様の為か、夜は香港より過ごし易そうだ。次回の真ホッケと男山を楽しみに、一方通行で流されるようにタクシーで帰路についた。

 

 

鳥丸 雄樹鳥丸 雄樹(とりまる ゆうき)
元JEFユナイテッドのジュニアユースGK。
ロスの日刊サンへの寄稿を経て現在に
至る。随筆風FACEBOOKなど、現在は
香港を拠点に活動中。

 

 

 

 

 

おばんざいキッチン道
住所:広州市天河区龍口西路222号
(パンの中村屋隣)
電話:+86.20-3837-0879
営業時間:11:30~14:00(LO13:30) / 18:00~22:30(LO22:00)
定休日なし

Pocket
LINEで送る