中国法律事情「中国の監査役制度」高橋孝治

2016/02/22

株式会社の場合、基本的には以下のような構造を取っています。株主(株主総会)という出資者がいて、取締役(取締役会)という業務執行を行う者がいて、取締役が不正を働かないように監視する監査役(監査役会)を株主が雇う。この基本的構造は中国も同じです。しかし中国の監査役(原文は「監事」)は日本と違い、株式会社でなくても監査役を置かなければならない上に(多くの日系企業は監査役を設置しなければならない形態)、監査役のうち3分の1は労働者の代表から選ばなければならないのです(公司法第52条第2項。株主数が少数の場合もしくは小規模の会社の場合は例外あり)。
監査役の職権の中には、会社の財務検査、董事(取締役)などの会社業務の監督などが含まれています(公司法第54条)。つまり労働者に会社の財務状況や取締役の行動などが知られてしまう可能性があります。これは日本人には非常に違和感があり、在中日系企業の頭を悩ませる制度でもあります。

もともと中国の会社は社会主義体制下での国営企業で計画経済の担い手でした。そのため、かつての中国の会社構造は株主総会、取締役会、監査役会ではなく、社内党委員会、労働者代表大会、労働組合でした。ここで重要なのは「労働者代表委員会」です。社会主義国家は全体の意見を重要視します。そのため社内においても労働者が意見をあげられるように「労働者代表委員会」を作ったのです(この方法は社内民主に有益であるという表現をしました)。現在の監査役に労働者代表を入れなければならないという規定はこの社内民主の思想の表れと言えるでしょう。つまり社内で労働者が意見をいろいろ述べられるように、労働者も会社の内情を知らなければならないという思想が中国の会社法(公司法)の根底にはまだあるのです。

中国法律事情 なお、中国はかつての国営企業制度の下、雇い主は全て国家であり、全ての人が労働者であると考えていました。そのため現在も法律上の労働者には日本でいう労働者の他、管理職や幹部(役員クラス)の者まで含まれます(全民所有制工業企業職工代表大会条例第12条など)。つまり監査役になるのは日本でいう労働者とは限らない点に注意が必要です。ただし董事(取締役)および高級管理職は監査役にはなれないと明確に規定されています(公司法第52条第4項)。

〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
日本文化大学卒業。法政大学大学院放送大学大学院修孔中国法の魅力に取りつかれ、都内社労士事務所を退職し渡中。現在中国政法大学博士課程在学中。特定社会保険労務士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師、民事執行師。※法律諮詢師(和訳は「法律コンサル士」)、民事執行師は中国政府認定の法律専門職です。
ブログ「中国労務事情」http://ameblo.jp/zhongguolaowu/中国ビジネスヘッドライン内にてコラム連載中
http://www.chinabusiness-headline.com/author/xztakahashi

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