三つの願いと忘年会「彩菜 日本料理」深セン市宝安区

2014/09/15

人形その男が「彩菜日本料理」にやって来たのは、月が満ちはじめたある秋の夜だった。広い店内と趣向を凝らした創作料理が人気のこの店、男が深セン市の北西、沙井という街を訪れる度、必ず寄るようだ。
男は立て続けに二杯のビールを飲み干し、ほろ酔い気分で三杯目を注文する。ふとテーブルの下に目をやると、小さな古い小物入れが落ちている。
男:落し物かな?宝石なんかが入っていたりして。
小物入れを開けると中から出てきたのは宝石、ではなく「煙」であった。
男:ぶわーはっ。お爺さんになっちゃ・・あれ?龍の姿になってしまって・・・ない。な、なんだ?素煙か?
素煙。ではない。煙はモクモクと形を変え、なんとウサギの被り物をした小さな人形が現れた。

人形:ぷはあ。やあっと抜けだせたあ。ショーケースの中じゃ喋ることもできないもの。あなたですか?僕を呼び出したのは。何だか冴えない感じですね。もっとシャキッとしてくださいよ。
男:い、いかん。酔ってしまったようだ。なにか腹に入れて早いところ家へ帰ろう。それにしても、こういう時はせめて願いを叶えてくれる髭の生えた魔法使いが出てきてくれてもいいんだがなあ。

人形:何を言っているんですか。僕は魔法使いですよ。あのケースの中から出てきたんです。さあ、何なりと願いを言ってください。三つまでなら叶えて差し上げます。さあ、遠慮なく。

さあ、遠慮なく。そう言って人形は、店内にあるショーケースを指差した。そこには同じ顔をした何十体もの人形達が並んでいる。そのクリクリとした目に吸い込まれそうになるのを堪えて男は我に返った。
男:いかん、いかん。手のひらサイズの魔法使いを呼んでしまった。というかそんなものがいるはずがない。相当疲れているな。早く帰って眠ろう。でもなあ、この小物入れから出てきたことは確かだしなあ・・・わかった。じゃあ願い事を百回に増やしておくれ。

人形:な、なにを言い出すんです。魔法使いが願い事を百回も聞いていたら身が持ちませんよ。願い事は昔から三つと決まっているんです。何だかなあ。もう帰ります。
男:お、おいおい。冗談だよお。待っておくれよ。小物入れの中に入ろうとした人形はにっこり笑って振り返り、両手で被り物を撫でながら言った。
人形:待って?かしこまりました。待ちます・・・はい!一つ目の願いを叶えました。二つ目の願いをお願いします。

そう言って人形はクリクリの目玉を輝かせて、どんなもんだいといった表情で足を組んで小物入れに座る。
男:えー!?何なんだよこの魔法使いはー。
人形さあ、さあ、早く二つ目の願い事を言ってくださいよ。夜が更けてしまいます。僕もこう見えて忙しいんですから。
男:わかったよ。それならこの俺を家まで帰しておくれ。
今度は、ウサギの被り物をポンポンと叩いて人形は言う。
人形かしこまりました。家に帰る。
男:おお、家だ。家に帰ってきたあ。狭くて汚い見慣れたボロアパートだあ。ただいまあ。

人形:さあ、三つ目はいががいたします?
男:これで最後かあ。失敗したくないなあ。帰ってきたはいいけど、こんな部屋とはおさらばしたいなあ。かと言ってあのクリクリの目に向かって「お金をくれ」なんて言えないなあ。
その時、最後の願い事に慎重になっている男の電話が鳴った。彼の部下からである。
男:はい、もしもし。どうかしたか?
部下:もしもし、夜分にすみません。忘年会の件でちょっとお話したくて。なかなか会場が見つからなくて困っているんですよ。大体、六十人も七十人も受け入れてくれる日本料理屋なんてこの辺りにはありませんって。

彩菜 日本料理

忘年会の幹事を任せた部下からの連絡はこれで三回目だった。不満ばかりを漏らす下向きな部下。さすがに堪忍袋の緒が切れた。

男:うるさいよ。こっちは一世一代の大勝負をしているところなんだ。いいから、広くて綺麗な会場を押さえろ!今すぐにだ!
電話を切るなり男は背筋に冷たいものが通るのを感じた。
人形:かしこまりました。「広くて綺麗な会場へ今すぐに!
ポンポンポン。

!!・・・・・・
彩菜 日本料理
テーブルには三杯目のビールと、古ぼけた小物入れ。店の奥のショーケースの中からあの魔法使いの人形がこちらを見ている。店内に変わった様子はない。
男:ああ、大富豪になり損ねたな。あいつにも言い過ぎちゃったかな。待てよ。この店、二階もあるのか。
入口付近にある階段に男は初めて気がついた。すぐに店員を呼び、二階の広さを尋ねる。
店員:そうですねえ、貸切でしたら六十人の宴会も可能ですよ。
男:ありがとう。忘年会の予約をお願いします。
予約を終えると、男は三杯目のビールに口をつけてポケットの携帯電話を取り出し、部下に電話をかけた。ケースの中の人形達が両手を挙げて万歳をしている気がした。

彩菜 日本料理
住所:深セン市宝安区沙井街道民福路39号八方精品酒店1階
電話:(86)755-2306-3131、134-1000-8089(渡辺まで)
時間:ランチ 11:30~14:00/ ディナー 17:30~23:00(22:30 ラストオーダー)
微信:saisai_jpl(登録時に特典サービス有り)

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