殿方 育児あそばせ!第62回「我が子のために出来ること」

2022/10/19

殿方育児あそばせ

 親として(後編)

〈前回からの続き〉

妻はチビが舌を噛まないように口の中に指を入れているが、ひきつけを起こした子どもの噛む力は尋常ではなく、妻はものすごく痛がっている。これはマズイ、とチビの口を開けようとしたが中々開かない。
やっとのことで口を開け、妻の指を見ると歯型がガッツリとついていた。口には代わりにハンカチをくわえさせ、とにかく急いでもらえるように運ちゃんを促した。やっとのことで(実際は10分程だった)病院に着いたが、妻は指の痛さでまともにチビを担げないので、私が担ぎ病院に入り、看護師へ状況を伝えると、すぐに処置することになった。身体を強ばらせているのと、子どもで血管が細く見えにくいこともあり、点滴は足に打つことになった。点滴をして暫くすると、チビはうっすらと目を開け、何があったのか分からず不安な面持ちで泣き出した。
妻と私はチビをなだめながら少しほっとしていた。スクリーンショット (2071)

ひとまず処置が済んだところで、医者から採血室へ行くようにと指示された。チビの寝ているストレッチャーを押し、エレベーターで上階にある採血室へ移動して、チビの採血をして結果が出るまで待つことになった。結果が出るまでの間、まだ少し熱はあったので近くの薬局から冷えピタもどきを買ってきて、寝ているチビのおでこに貼ってやると、少しビクッとして嫌がる素振りを見せた。それはいつもの反応だった。二人で苦笑いをしながらおでこにそっと手を当てて押さえつける。熱がある時に冷えピタ類を貼ると、最初は冷た過ぎるのか嫌がって取ろうとするので、慣れるまで十数秒間、無理やり押さえつけるのだ。そんな事を思い出しながら、いつの間にか緊張が解けていることに気付くと、妻は親戚に電話をかけ、食事は欠席することを伝えた。

結果が出たので医者に見せに行くと、他には特に問題は無いようなので、家に帰って安静にしてくださいとの事。新型なんちゃらウィルスの事などほぼ頭から飛んでいたが、兎に角、なんともなくて良かったと胸を撫で下ろして、いそいそと帰り支度を始めた。配車サービスAPPで車を呼び家まで帰り、部屋に入るとチビは目を開けて何故家に戻ったのか聞いてきた。今日は体調が悪いから外食はやめて家で作ることにしたからもう少し寝てなさい、と伝えるとチビはまた素直に目を閉じた。スクリーンショット (2070)

チビが寝たのを確認した後にベランダへ出て一息つくと、とっくにお昼はまわり、午後の中途半端な時間になっていることに改めて気付いた。妻に飯はどうしようか聞くと、外买(wài mài=出前)でいいんじゃない? と言ったので賛成。あまり食欲が沸かないので軽いものを頼んで食べた。

その後は風邪の看病と変わらなかったが、本当に何歳か歳を取ったような疲労感があったのは間違いなかった。

前編冒頭でも言ったが、これが忘れたくても忘れられない出来事だ。スクリーンショット (2072)

自分では本番に強いと勘違いしていたけれど、いざこのような事が起きた時に、とっさに取れる行動がどれほどあるのか、考えないとダメだなと気付かされた一件だ。今でも特に何かを準備したり調べたりはしていないが、何が起きてもすぐに動けるように心構えだけは作っている“つもり”だ。いくら知識を増やしても技術を学んでも、専門家には敵うわけがない。ならば、緊急時にとにかく動かせる頭でいること、それが、私が子のために出来ること、無理せずやれることの最善だと思っている。これが私の“親として”だ。

小小。わぁは、あだまもねぇなにほどまいねぇ親だばって、生き方だげは教えでやれるはんでな。あどは母っちゃさ教えでもらえばいーっぎゃw。おめぇもでがぐなりゃ分かるって。な!


photo prof平太郎
日本の東北出身で中国語がまったくできないまま中国に来ちゃった無計画男。寒い所と雪かきが嫌で南国広州で定住をほぼ決めている。最近はコピーロボット的な振る舞いの息子に同族嫌悪を覚えながら似たもの親子で一緒に妻に怒られつつも子育てに奮闘中。趣味というかライフワークになりつつあるクラフトビールを片手に夜な夜なビアバーを探し、せこせこリスト作りに励んでいる変人に果たしてまともな人間に育てられるのかと禅問答を繰り返す日々。

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