殿方 育児あそばせ!第58回「身の毛がよだつ出来事」

2022/09/14

殿方育児あそばせ

 親として(前編)

忘れたくても忘れられない出来事。

……ある年明けから少し経ったある日、連休なのでのんびり過ごそうと久しぶりに広州から少し離れた自宅へ戻り、のんびり過ごすことになった。妻とチビは連休の2日前に戻っていたが、私は仕事があったので連休前日の夜に戻り、その日は夜中に着いたので早々に晩飯を済ませて風呂に入り、ちょっとだけビールを飲んでから床についた。もちろんチビと妻は先に寝ていた。次の日から特にやることは無いので、とにかくダラダラとダメオヤジを満喫。チビは早めに起き、隣の家の子達ときゃっきゃっと遊んでいる声を尻目に、私は惰眠を貪り布団から出ずにゴロゴロ、ゴロゴロ。

そんな幸せな時を過ごしていたある日の朝、いきなりたたき起こされた。何が起こったか分からず寝ぼけているぐうたら亭主に妻は、これから親戚と一緒にご飯を食べるから起きて支度しなさい、とのこと。天国から地獄へ落とされたような気分で渋々起き上がり身支度を始めた。すると妻から「小小(チビ)の熱がまだあるから、近くの病院に寄ってから行く」と言われた。そう、チビは前の日から少し熱を出していたが、まだ小さいせいで、自分の体調不良より遊ぶことを優先しておとなしくしていなかった。それが朝になっても熱がある、ということで、病院で一応診てもらうことにしたのだ。

家から歩いて5~6分程のところに小さな診療所があったので、冷えピタモドキをチビのおでこに貼り、出かけた。診療所と言っても入口を入るとすぐに薬局のような部分があって、中間には机と椅子がおいてあり医者が座っていて、奥には点滴用のイスが置いてある程度の本当に小さい診療所だった。医者に子どもが昨日から熱があって朝になっても下がらないことを伝えると「ここでは判断できないので、街の大きな病院へいってくれ」との事。まだコロナが落ち着いていない時期だったため、熱がある場合は小さな診療所で簡単に薬を出せないことになっていた。万が一コロナだとしたら、薬で無理やり熱を下げたりすると拡がってしまうリスクがあったからだ。もちろん理解できるので、仕方ないなと思いながら診療所をあとにした。
スクリーンショット (1866)まぁ熱はあるものの、いつもと変わらない様子のチビをみて、先に昼食を食べてから病院に行くかと妻と二人で話し、タクシーに乗った。そして親戚の待つ約束のレストランへ向かうタクシーの中で、その出来事は起こった。
(今思い返してみても、背筋が凍り鳥肌が立ち髪の毛が総立ちになりそうなほどだ)

車に乗ってすぐにチビは妻に甘えるように抱きつき、若干気怠そうな表情を見せた。おでこを触ると、冷えピタモドキをしているにも関わらず、かなり熱い。もう冷えピタモドキの効力が無くなったか? と額から取りチェックしていたら、みるみるチビの様子が変わり、ぐったりした
状態になった。これはマズイ、と思った瞬間、チビは拳を胸の前で握り、何かに耐えるようにグッと構えるような姿勢でブルブルと小刻みに震え始めた。顔を見ると歯を食いしばり白目をむいて泡を吹き出している。妻は慌てふためき、チビの名前を叫びながらとっさに自分の指をチビの口の中に突っ込み、舌を噛まないようにしている。

目の前で何が起こっているのか認識できず脳停止していた私は、妻のチビを呼ぶ叫び声と姿で、ハっと我に返った。すぐに混乱している妻に、行き先を病院に変更するよう運ちゃんへ伝えなさいと言うと、タクシーの運ちゃんも状況を察知して、すぐに行き先を病院へ変えてくれた。妻はとにかく急いでくれと喚いていた。
〈後編へ続く〉


photo prof平太郎
日本の東北出身で中国語がまったくできないまま中国に来ちゃった無計画男。寒い所と雪かきが嫌で南国広州で定住をほぼ決めている。最近はコピーロボット的な振る舞いの息子に同族嫌悪を覚えながら似たもの親子で一緒に妻に怒られつつも子育てに奮闘中。趣味というかライフワークになりつつあるクラフトビールを片手に夜な夜なビアバーを探し、せこせこリスト作りに励んでいる変人に果たしてまともな人間に育てられるのかと禅問答を繰り返す日々。

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