殿方 育児あそばせ!第55回「仲良しな葉子とパパ」

2022/08/24

殿方育児あそばせ

ママの怪我騒動のあと葉子と私は仲良しとなった。以前はお互いにどう接すればよいかわからなかったのかも知れない。何ら躊躇なく二人きりの時――私が一人きりで葉子の面倒を見る――を楽しめるようになった。今では私は葉子の人生初めての友達だと思っている。最近では、人形遊びやおままごと(最初は顔から火が出るほど恥ずかしかった)、追いかけっこやボール遊びも一緒にするようになった。これは葉子の成長だけでなく、私自身の成長でもある。親になる前は知らなかったが、親である人間も未熟であり、子と共に成長するのだと気がついた。子を導く存在であると同時に一生の、最良の友でもありたいと思った。

とはいえ、葉子がママにべったりであることは相変わらずである。ママが1分でも見えなくなると不安になるようで、私と二人で遊んでいるときも、ふとママがいないことに気がつきママを探し始めるのだ。出かけるときはなおさらで、10秒でもママが視界から消えると泣き出すことが度々あった。これには私自身にも同じような記憶がある。私が葉子と同じくらいの年の頃、近くのイオン(当時Jusco)で私は迷子になったと思い込んで大泣きをした。ほんの数十秒であったようだが、母親が視界からいなくなった瞬間、大きな不安を覚えたのだろう。母は数メートル後ろで洋服を選んでいただけだったが、幼い私は店員が駆けつけるほどに大泣きしたのだった。

恥ずかしい話、私が小学校4年生くらいだったと思うが、私は大きくなってまで似たような思い出がある。私たちは都会から少し離れた祖父の家に、祖父、母、姉、私の4人で住んでいた。父親がいなかったのもあり私は母にべったりで、どこへ行くのも一緒だった。その日、毎年恒例だったフリー切符の日に電車で都会の方に私と母は二人で出かけて行った。姉は、学校の友達と一緒に出発し、別行動だった。買い物の途中で私が好きなKFCに行くことになり、少し混んだ店内で母と二人で列に並んでいた。しばらくすると、すぐ戻るからと母は列を離れ、店の外に行ってしまった。

いつも母まかせで、お店の注文などしたこともなかった私は、列が徐々に進むとそのたびに緊張感が増していくのを感じた。注文の仕方もわからず、いざ自分の番となると、一気にパニックになった。「ご注文はいかがですか?」と店員のお姉さんは、やさしく私を見つめていたが、数秒の沈黙のあと私はそこから逃げだしてしまった。走ってお店の外にいた母を見つけると、私は泣きながら母に抱き着いたのであった。そこには、別行動していた姉と姉の友達たちがいて、よく家に遊びに来ていたお兄ちゃんは「なに泣いてるんだよ」とやさしくなだめてくれた。――思い出すだけで赤面してしまう恥ずかしさだが、その後の記憶はない。

2人きりで出掛けた葉子とパパ

2人きりで出掛けた葉子とパパ

ちなみに私が母とべったりで、どこに行くのも一緒だったというのは、私が高校を卒業し海外に出るまで続いた。私がそんなだから、葉子が(まだ先の話だが)親離れできるのか心配である。近い未来の話、幼稚園の入園があるわけだが、入園初日、泣きじゃくる葉子を想像するだけで心が痛むのである。私自身も同じで、子離れ出来るか否かの最初の試練となることだろう。

 


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神沼昇壱(かみぬま しょういち)

随筆家。広州在住の日本人。2002年に中国に渡り留学と就職を経験。その後、中国人女性と結婚した。2021年現在一児の父として育児に奮闘中。

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