香港中文大学 マイケル・サンデル氏来港講演

2016/03/21

c1 世界中で200万部以上発売され、27か国の言語に翻訳されたベストセラー哲学書「これからの『正義』の話をしよう:いまを生き延びるための哲学(Justice:What’s the Right Thing to Do?)」の著者マイケル・サンデル氏が、去る3月11日、香港中文大学のリサーチセンターで講演を行った。1,500人収容可能な同センターだったが、入場券は即完売。講演をリアルタイムで見たいという観客のために大学側は追加で講演会場を開き、ストリーム放送を提供した。世界でも有数の人気教授の講義とあり、熱気溢れる講演会となった。

サンデル氏は哲学、政治哲学、倫理学を専門とする米ハーバード大学の教授。担当している講義「Justice(正義)」で過去最高の15,000人を超す履修者を記録、さらには同大初のオンライン・テレビ放送が敢行されるなど、学生だけでなく幅広い世代からの注目を集めている。対話形式の授業を執るサンデル氏は香港中文大学での講演について、「我々の社会に存在する金銭、市場、道徳上のジレンマがどのように還元されているのか、香港の学生たちから聞c2くのを楽しみにしていた」と語った。

今回の講演の主題は同氏の新しい著書「それをお金で買いますか:市場主義の限界(What moneyCan’t Buy: The Moral Limits of Markets)」を基に行われた。「お金で何でも手に入る世の中は何かがおかしいと思わないか?」という疑問から始まり、「誰かが新しいiPhoneのために自身の内臓を売りに出していたらどう思うか?」、「子どもが本を読んだり、いい成績を取ったりした場合にお金をあげるべきだと思うか?」、「リスクのある新薬の実験台になることに報酬を用意するのは倫理観に反するのか?」といった具体的な問題を用いながら、市c3場主義と道徳観のバランスの重要さを巡る議論を展開した。

特に子どもが何のために勉強をするのかといった問いに対しては、経済的に豊かな生活を手に入れるために勉強すると教えるのではなく、自身で考え、正しい判断を下せる人間になるために勉強すると説くべきだと語った。時にいい仕事、いい給料、いい生活を目指しがちな現代の兆候に切り込んだコメントに、会場では相槌を打つ観客の姿も見られた。

現代のようなあらゆるモノが手に入る世の中であるからこそ、時に立ち止って自身の道徳観を改めて考えてみる必要があるのかもしれない。著書は現在日本語訳版も発売中。普段は見過ごしがちな「倫理」に向き合う時間にしてみてはいかがだろうか?c5

それをお金で買いますか:市場主義の限界(What money Can’t Buy: The Moral Limits of Markets)
社員に内緒で生命保険をかけ、本人が亡くなったら保険金を会社が「教育費」として受け取ることは道徳に反しているのか?リスクのある実験に報酬を用意
し、他者を人間モルモットとして扱うことはどうか?あらゆるモノがお金で買える現代の行き過ぎた市場主義に鋭く切り込む1冊。具体的な事例でわかりやすく市場経済と倫理間のバランスの大切さを説く。

香港中文大学c4
ウェブ:www.cuhk.edu.hk/english/index.html
リサーチセンター(Research Centre for Human Values)
ウェブ:www.eng.cuhk.edu.hk/rchv/

 

Pocket
LINEで送る