花樣方言 アナと雪の女王の博多弁

2014/10/13

Vol.56<アナと博多弁>

アナ雪の博多弁

ディズニーのアニメ『アナと雪の女王』の観客動員が日本で2千万人を超え、ジブリの『千と千尋の神隠し』に次ぐ歴代2位に。松たか子さんの歌う主題歌はYouTubeでの再生回数が、字幕版と合わせて1億1千万回を超えています。YouTube上はさながらカラオケ大会、アナ雪の挿入歌とそれらの替え歌が勝手に歌われていますが、その中で注目されているのが、方言による吹き替えです。
きっかけは、挿入歌『生まれてはじめて~リプライズ』のシーンを博多弁に吹き替えた動画。歌唱力があり、画面もしっかり作られているので、当初から「プロによる犯行」と推測されていました。これが大当たり。次に現れたのが、同じ歌の大阪弁バージョン。大阪のシンガーソングライターによるもので、「博多弁版をベースに」と銘打った上で、博多弁版の作者に謝意を表しつつ、同じく立派な歌唱力で歌い上げています。それぞれ3百万回、4百万回に迫る勢い。続いて、広島弁、名古屋弁、八戸弁、長崎弁、京都弁、甲州弁などが現れ、沖縄、土佐、富山、奈良、山形、鹿児島、宮城、遠州、小松…と、増殖中。
中国には以前から、中国各地の方言で勝手に吹き替えられたディズニーアニメの海賊版、「なんちゃってバージョン」があるのですが、これらは地元の人以外は、まず見ないです。他地域の人が聞いても何を言っているのか理解できませんから。アナ雪の日本語方言バージョンは、「できるけん、絶対できるけん!」といった具合に、ほとんど文末の接辞が違うだけで、日本人なら誰でも理解できます。再生回数が多いのは、その方言の使われている地域以外の人たちも見ているからです。最近、各方面で方言が好意的に受け止められているのは、方言がやさしくわかりやすくなり、何を言っているのか他地域の人にも理解できるようになったから、というのも理由のひとつ。アニメのキャラ語尾などにも応用されているこういった「簡略方言」は、各地の名物・特産品と同じく、それぞれの地域を表す一種の指標として機能しています。
挿入歌『とびら開けて』の博多弁版では、「教えてよ、何が好きか」「サンドイッチ!」のところが「めんたいこ!」に、『生まれてはじめて』の広島弁版では「チョコを食べちゃう~」が「もみまん(もみじ饅頭)食べるんよ~」にアレンジされています。『雪だるまつくろう』の八戸弁(南部弁)バージョン『雪だるまこへるべ』も再生回数が3百万回に迫る人気ぶりで、「がんばれジャンヌ!」のところが「がんばれ光星!」に。これは高校野球で有名になった八戸の光星学院のことでしょうね。名古屋弁の『雪だるまつくろまい』では「自転車に乗ろう~」のところが、期待通り「けったマシーン乗ろまい~」。こういうローカライズの火付け役も博多弁版で、「国中が雪と氷に包まれたの」のところを「博多が雪と氷で包まれたと」としたのが起爆剤。大阪弁版でも「大阪が雪と氷でえらいこっちゃや」。八戸弁でも「八戸が雪と氷さ包まれでらの」。八戸ならこれは、妙に実感がわきますね、現実に起こりそうなことです。土佐弁では、「高知中がカツオのたたきに包まれたが!」。
現在、一般に「方言」とされるものの中には、方言学の方面からは「新方言」と呼ばれているものが多く含まれています。AKBが各出身地47都道府県の方言を話す缶コーヒーのCM、このCMシリーズの中で言われている強調の副詞、大阪の「むっちゃ」、広島の「ぶち」、宮崎の「てげ」、佐賀の「がばい」などがさしずめ典型的な新方言。「がばい」は島田洋七さんの『佐賀のがばいばあちゃん』で有名になりましたが、昔は「がばい」という言葉はなかった、と佐賀のご老人は言います。21世紀の最初の10年で日本から方言は死滅する、などと言われたものですが、日本の方言はむしろ、その担い手を若い人たちに替えて、新しい時代に入ったのだと見るべきでしょう。「今年も海に行くけんて、いっぱい映画も観るけんて、約束したやない…、会いたか…」と博多弁で森口博子さんが歌った『会いたい』に多くの博多っ子と博多以外の人たちが涙したのは、この言葉が死んでいない証拠です。
現在の大阪弁は大正末期から昭和初期にかけてできあがったもので、井原西鶴のころの大坂言葉とは異なります。江戸時代はまだ関西の言葉が標準語、関西人は関東の言葉を見下して、関東の田舎者は観音様(くゎんおんさま)を「かんのんさま」、天王寺(てんおうじ)を「てんのうじ」と訛る、と揶揄したのですが、今では関西でも、かんのんさま、てんのうじ。関東式に「訛って」います。言葉は、変わるものなのです。野暮な提案ですが、西鶴の時代の言葉で浄瑠璃版アナ雪、など作ってみてはいかがでしょう。きっと世界が注目しますよ(3DCGも人形浄瑠璃も似たようなもの、どちらも動く立体)。古典への関心が高まって、歴女、宙ガール、などに続き、古語ガール、なんてのが現れるかもしれません。古語と方言との関係が理解できたとき、それこそが本当の、方言の世界への入り口となるのですが。

 

大沢さとし(香港、欧州、日本を行ったり来たり)

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