2分で読める武士道 第21回

2022/02/23

2分で読める武士道

 

世界中で注目されている日本人特有の性格や行動の数々。
それらの由来は武士道精神にあった。
しかし、肝心の日本人にその武士道精神が浸透していないのが日本の現状である。

 

筆者が外国生活を通して感じた日本人の違和感を「武士道」や「葉隠」などの武士道関連文献をもとに紐解いていく。

 

 

 

 第21回 必要のない人間は今すぐ切り捨てるべし

香港の労働法では、入社して1ヶ月以内であれば事前の通知なしで雇用者はその日限りで新入社員をやめさせることができ、一方で社員も即日会社を辞めることができる。これが入社から1ヶ月を過ぎた場合は1週間前の事前通知があれば同様に雇用契約を解除することができる。しかし、入社から3ヶ月が過ぎると通常1ヶ月前の通知がお互いに必要となる。
会社にとってもその人材が本当に有能かどうかというのは面接の時点では分からないし、社員にとっても自分がその会社に合うかどうかは入ってみないと分からない。
ただ、何か違法行為をしたというわけでもなく、パフォーマンスが悪いからという理由で社員に解雇を宣告することはいささか簡単なことではない。雇用契約は常に人間対人間のやりとりになるので「使えないから捨てる」という考え方は理にかなってはいるものの、感情の部分でどうしてもブレーキがかかるものだ。
それに、もしその人間を切ってしまったら、その穴を埋めるためにまた新しい人材を見つけなければならない。当然、その新しい人材がまた有能であるかどうかの保証もないので、採用しては切ってのいたちごっこになる可能性は高い。結果として、「いないよりはマシだろう」とか、「もうちょっと様子を見てみるか」という結論に至ってしまい、そうやって少しずつ会社に有益でない社員が増えてしまうのである。

売れるパン屋さんを作れる人と売れるパンを作れる人の違い
GreatなリーダーとGoodなリーダーの違いは、パン屋で例えるなら「売れるパン屋さんを作れる人なのか」、それとも「売れるパンを作れる人なのか」という点にある。美味しいパンを作るだけなら職人一人で十分だが、売れるパン屋さんを作るには職人だけではなく、その他大勢のスタッフが必要になる。そしてこの職人と呼ばれる人とスタッフと呼ばれる人とでは仕事に対するモチベーションが大きく変わってくる。
職人は給料や時には自分の生活を差し置いてパン作りに没頭し、誰に言われるまでもなく自ら寝る間も惜しまず昼夜美味しいパン作りに精を出すことができる。一方でスタッフは給料やその他の福利厚生ありきで仕事をしている人が多いので、特別パンが好きでなくても、家がパン屋に近いからとか、売れ残りのパンを持ち帰りできるからとかいう理由で働いている人も少なくはない。両者の間にはパン屋でなくては働けない人とパン屋でなくても働ける人という決定的な違いがある。
リーダーはこれらの職人とスタッフのモチベーションの違いを把握したうえで舵取りをしなければ、売れるパンは作れても一向にパン屋は儲からない。

私たちの仕事に対するモチベーションはそんなに高くない
香港の大手求職サイト「JobsDB」によると香港人の仕事選びの基準TOP3は、上から「①福利厚生、②ワークライフバランス、③安定した雇用保障」と業務そのものに対するモチベーションに全く欠けていることが分かる。香港人のように仕事以外のところを重視して会社選びをされてしまうと経営者としてはそれらの人材を扱うのは難しい。なぜならかれらは仕事自体に興味はないからだ。
上方では花見用の折り詰めがある。一日限りの使い捨てである。帰りには踏み散らして捨てるのである。さすがは都びとの思いつきである。万事につけその切り上げ方が大事である、と言われた。(葉隠聞書第一 p.340)

結局のところ、売れるパン屋を作るためには、美味しいパンだけでなくいかに人材を循環させられるかがポイントになる。一人の人間にしかできないような仕事を減らし、誰にでもその仕事ができるようにマニュアルやシステムを構築することで、特定の人間に頼ることなく不要な人材を切り捨てる対応が迅速にできるようになる。
また人材の循環には常に求職者の列を作っておくことも大事で、そのためには「このパン屋で働きたい」と思わせるような魅力が必要であり、福利厚生を他店より良くすることも一つの手であろう。多くの選択肢の中から適材適所に人材を採用、そしてときには切り捨てる。Greatなリーダーになるには時にそのような素早い判断が必要で、そこで躊躇していてははならない。


profile筆者プロフィール

宮坂 龍一(みやさか りゅういち)
東京都出身。暁星高校、筑波大学体育学群卒業。
香港の会社、人事、芸能、恋愛事情にうるさい。

 

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