2分で読める武士道 第20回

2022/01/26

2分で読める武士道

 

世界中で注目されている日本人特有の性格や行動の数々。
それらの由来は武士道精神にあった。
しかし、肝心の日本人にその武士道精神が浸透していないのが日本の現状である。

 

筆者が外国生活を通して感じた日本人の違和感を「武士道」や「葉隠」などの武士道関連文献をもとに紐解いていく。

 

 

 

 第20回 お祝い事や運動会に使われる「紅白」の謎

 

 「日本の神棚、あれはふしぎですね。白木で」
白木のようなそっけない粧(よそお)いでもって、ひとに利益を感じさせ得るだろうか、と言いたげである。
「台湾人なら赤い色を塗ります」「赤を使いすぎると、下品になりますね」
と言いたかったが、せっかく上機嫌でいる“老台北”の気分を尊重して黙っておくことにした。もっとも、諸国の国旗に赤が多用されているように、この色は人間の精神にいきなり訴える力がある。
 『新約聖書』の「ヨハネの黙示録」を見ると、神も赤い印象だったらしい。ヨハネが聖霊の力によって見た神は、目が炎のようで、全体が赤瑪瑙(めのう)
のように輝いていたという。
 日本の神社でも、赤が使われないことはない。お稲荷さんの鳥居は赤だし、江戸時代、日光東照宮の造営以後に流行した権現造りにも赤が多くつかわれている
(司馬遼太郎著『街道をゆく40‐台湾紀行』朝日文芸文庫)

2021年12月31日、大みそか。香港では元旦を特に盛大にお祝いする習慣はないのだが、娘も3歳になり日本の正月というものを少し見せてあげたいなとふと思い、会社からの帰り道にイオンでおせちと紅白もちを買って帰った。おせちもお餅も娘にとっては人生で初めて見る食べ物なので興味津々だったが、突然紅白もちの赤いほうを指さして「Why, red?」と尋ねてきた。

紅白の謎について早速Googleで調べてみると、最も説得力のある説は赤は赤ちゃん(生命の誕生)、白は死(生命の終わり)を意味し、それぞれの色を組み合わせることで人生、つまり一生の晴れ舞台という意が込められているというものであった。香港、中国でも赤はめでたい色で、お祝い事の際にはたいてい紅包(ホンバオ)と呼ばれる赤い封筒にお金を入れて「おめでとう」のやり取りが行われる。

「赤色=めでたい」という点では日本も中国も同じなので、「祝う」というのが目的ならそれこそ中国の旧正月や結婚式のように赤一色で盛大にデコればいいではないかと思うのだが、死を意味する白をあえて加えて「紅白=めでたい」としてしまったところは何とも日本らしい。両文化の色へ込めた微妙な違いは、人生(生きている時間)を謳歌するという中国人の儒教的な考え方と死んで極楽浄土へ(幸せになる)という日本人の仏教的な考え方の違いから来ているのかもしれない。

また紅白と言えば多くの日本人が紅白歌合戦を思い浮かべることだろう。思い返せば幼稚園の帽子も赤と白のリバーシブルだったように、戦い事、競争となると赤と白に分かれるというのは日本の伝統であり、これについてはGoogleによると源平合戦の時にそれぞれの陣営が赤と白に分かれていたところから始まったといわれている。

ちなみに柔道でも紅白試合というものが公式、非公式で今でも全国各地の道場で開催されている。またかつては畳に立つ2人の選手は赤か白の帯を巻いて試合に臨んでいたのだが、柔道の国際化及びスポーツ化が進むにつれ、よりエキサイティングで大衆向けのビジュアル化を目的として現在の青の道着が採用されることとなった。
読者の皆さんはもしかしたら、「ん?なんで赤道着じゃないの?」と思った人がいるかもしれないが、これは一説によると赤色は人間の闘争心を過剰に煽る可能性があり、お互いが平常心で試合に臨めるように影響が少ないであろう青色が抜擢されたとのことである。

そもそも柔道着がもともと白い理由は、死装束(しにしょうぞく)がルーツとなっており、「死ぬ覚悟で闘いに挑むという意味合いが込められているんだぞ」ということを私は中学柔道部の監督から教わった。ただし死装束は左前(左側が内側)で着るのに対して、柔道着は右前(着物や浴衣と同じ)で着なければならないので初めて柔道をする少年少女は気を付けなければならない。私が現在教えている柔道クラスでも、体験クラスだと柔道着を左前で着てくる香港人や外国人の生徒さんがいるので、そのときには「お前はもう死んでいる」なんてブラックジョークを飛ばしながら柔道着の正しい着方を指導している。


profile筆者プロフィール

宮坂 龍一(みやさか りゅういち)
東京都出身。暁星高校、筑波大学体育学群卒業。
香港の会社、人事、芸能、恋愛事情にうるさい。

 

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