2分で読める武士道 第15回

2021/08/25

2分で読める武士道

 

世界中で注目されている日本人特有の性格や行動の数々。
それらの由来は武士道精神にあった。
しかし、肝心の日本人にその武士道精神が浸透していないのが日本の現状である。

 

筆者が外国生活を通して感じた日本人の違和感を「武士道」や「葉隠」などの武士道関連文献をもとに紐解いていく。

 

 

 

 第15回 東京五輪で一番良かったインタビュー

 

「「もう完敗でした。」(サッカー日本代表吉田麻也選手)

 

 東京オリンピック2020サッカー3位決定戦敗戦、日本がメキシコ相手に太刀打ちできないことが観ている人にもひしひしと伝わった戦いで、試合をしている本人たちは試合途中ですでに試合の結末に気がついていただろう。それでも90分戦わなければならない、相当辛かったはずである。そんな過酷な試合の後に選手たちに追いうちをかけるようなインタビュー。試合後の久保選手の号泣だけでもう十分ではなかったのか。

 それにしても、今回の東京オリンピックでは、コロナのせいなのか、日本で開催したせいなのか、それとも日本選手団がメダルを取りすぎたせいなのかは分からないが、国民の注目がやたらと試合後の選手たちの態度やコメントに集まりすぎているように感じた。

 

「もう1回泳ぎたい。やっちゃった。自分でもちょっと信じられない。」

 

 大会前に女性問題が報じられた水泳の瀬戸大也選手のこのコメントは日本国民をさぞがっかりさせたようだが、オリンピックという大舞台で戦い、負けたばかりのアスリートにとってこの感想は極めて普通のように感じるのは私だけだろうか。日本人は「強ければいいってものじゃない、謙虚さとか、礼儀とか精神的な部分も大事!」と考えている人が多いようだが、そんなことはいちいちヤフーのコメント欄に書かなくていいのだ。なぜならただ強い、上手いだけの人は、あなたに言われなくても絶対に金メダルは取れないし、日本代表になることすらできない。体力、技術だけでなく強い心がなければ試合では絶対に勝てない。試合での心のコントロールの難しさについては、世紀の大誤審により金メダルを逃したあの元日本代表選手もこのように語っている。

 

「「冷静に試合をできなかった。周りが見えていなかった。それに尽きる。何でや、何でオレの一本じゃないんだと考え続け、もう一回投げて勝とう、と気持ちを切り替えられなかった。気持ちに余裕がないからポイントが並んでいる状況も判断できなかった。一生に一度の夢に全てをかけたはずだったのに。弱かったから負けた、確かにそう言いました。ただ…心が弱かったから負けた、それが正確なコメントでしたね」

 

 これはシドニーオリンピック柔道100㎏超級銀メダリスト篠原信一の最近の記事でのコメントである。彼のこの言葉がオリンピックで力を出し切れなかった全ての選手を代弁しているだろう。

 ちなみに、私が今大会の試合後の選手コメントで最も関心したのは柔道60㎏級で金メダルを獲得した高藤選手のものである。

 

 「ありがとうございます。本当に今までみんなに支えてもらってこの結果だと思います。本当に古根川実コーチ、井上康生監督に迷惑かけてばっかりだったので結果残せてよかったと思っています。こうやって開催していただいたおかげです。豪快に勝つことができなかったのですがこれが僕の柔道です。今まで応援していただいてありがとうございました。金メダリストとして柔道を磨いていきたいと思います。」

 

 オリンピックではほぼ毎回大会初日に登場する柔道競技からメダルまたは金メダル第一号が出る。となると勝っても負けても自然と初日の柔道競技(女子48㎏級と男子60㎏級)に注目は集まるわけで、金メダルを取ったとなれば全国民の視線が選手のコメントに向くのは避けられない。まだ他の選手が目立ったコメントをしていない中で高藤選手の口から感謝の気持ちがたくさんあふれ出ていたのには大いに心を打たれたし、彼は金メダルに相応しい心技体を兼ね備えていたと思った。

 

 一方で彼のこの日本第一号のコメントがその後の選手たちのコメントのハードルを高くしたというのも少なからずあったと思う。体操の内村選手が負けて謝罪したのも、瀬戸選手のような率直な感想がバッシングの的になったのも、高藤選手の言葉を受けて国民の選手に求めるものが高くなっていったからではないかと思う。

 いずれにしても、「みんな試合頑張ったんだからさ、試合後のコメントくらい自由に言ってもらってもいいじゃん」…とならないのは、なぜなのか。

 

 日本人は幼稚園のころから「お家に着くまでが遠足だよ」という教育を受けてきた。そういう考え方が日本人には自然と定着しまったのかもしれない。インタビューに答えるまでがオリンピックなんだよ、という。日本人は勝負にもうるさいが、礼儀にもまたうるさい。つくづく疲れる民族である。


profile筆者プロフィール

宮坂 龍一(みやさか りゅういち)
東京都出身。暁星高校、筑波大学体育学群卒業。
香港の会社、人事、芸能、恋愛事情にうるさい。

 

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