なぜ、日本人に武士道は伝わらないのか 第6回

2020/12/02

P09 school bushido_745_2世界中で注目されている
日本人特有の性格や行動の数々。

それらの由来は武士道精神にあった。

しかし、 武士道精神が何たるかが驚くほど
浸透していないのが日本の現状である。

筆者が外国生活を通して感じた
日本人の違和感を新渡戸稲造先生の 「武士道」 や
時事ニュースや関連文献をもとに紐解いていく。

 

 

 第6回 武士の4つの誓い 

 

 国を治め申さねばならないという覚悟が、私の肝に染みこんでいるだけだ。気力も能力も必要ない。一言で言えば、鍋島の御家を一人で背負う志、それが出てくるだけだ。
(講談社学術文庫「新校訂全訳注葉隠(上)」夜陰の閑談より)

 

香港人の責任感

 香港人の履歴書は立派なものである。香港、オーストラリアやイギリスの大学を卒業し、広東語、英語、北京語の3か国語はビジネスレベルで操れて当たり前、3年周期で昇進を実現しながら、さらなるキャリアップ、給料アップを目指して転職を繰り返す。

 特に香港人女性は積極的で我も強い。面接でも女性の方が給与面、福利厚生面などについて細かく聞いてくるし、要求も高い。もちろん、口だけではなく職場でもバリバリ働いて結果を出している。私の会社も女性比率は8割を超えるくらい、実際に香港人女性のビジネスシーンでの活躍は目覚ましいのである。

 私の妻曰く、彼女たちをここまで強くさせている要因の一つは、香港人男性のだらしなさだと言う。男性に頼れないからこそ私が頑張らなければという責任感が家庭でも職場でも自然と生まれるとのことだ。また、香港の高い家賃を支払いながら子どもに良い教育をさせたいと言う母としての責任感も彼女たちが貪欲なまでにキャリアアップを目指す大きな原動力となっている。

 

日本人女性の憂鬱

 日本でも女性がビジネスシーンで活躍している様子は多く見受けられるが、香港と日本の決定的な違いは香港にはヘルパー制度がある点であり、この差は想像以上に大きい。日本の職場で男女間に給与や役職の差ができてしまうのは女性は出産を機にキャリアプランが崩れるからである。たとえ両親が積極的に好意的に子育てのサポートをしてくれたとしても、家庭には子育て以外に掃除や洗濯、料理や買い物などの日々の業務から各種支払いや申し込みなどのadhoc(臨時的)なものまで男性が考えている数倍ものto do listがあり、それらすべてのことをほぼ女性一人で抱えながら第一線で働くことは至難の業だろう。一方で自宅に子育てや家事をやってくれるヘルパーを月々7万円程度で雇える香港は最小限の産休を取るのみで職場に復帰できるので、何人子どもを産もうとキャリアに支障を来たさないのである

 

武士の責任感

 武士の時代にも職務を全うせず、私利私欲に走る責任感のない武士は多くいたようである。だからこそ彼らを戒めるために武士道や葉隠なる指南書が生まれたのだ。葉隠では覚悟や志は冷めやすいので冷めないようにしなければならない、そのためには毎朝仏様の前で4つの誓いを唱えるべきだというアドバイスも述べられている。

 その誓いとは武士道を貫くこと、主君の役に立つこと、親孝行すること、人のために生きること。と、なんだかモーゼの十戒と似たようなことを言っており、西洋でも東洋でも悟りの行き着くところはほとんど同じ場所のようである。

 日本人が武士道を貫くためにまず押さえておくべき点は武士道は決して技術や体力、知力の高さに評価の基準を置いていないということである。かつての武士が武士である所以は上記の4つの誓いを必ず遂行するという覚悟と志があるかないかに尽きたのだ。

 

 私は、もし男女が完全に同じ条件と環境で10年間働くことに専念することができたら、高い確率で女性の方が男性よりも大きな結果を出すことができると思う。それはやはり女性には生まれ持った特有の責任感というものが備わっているからであり、責任感は自身の成長や物事の達成に欠かせないからだ。

 香港人男性が頼りないと言われるのは、普段は威勢が良いわりに家庭や職場で何か問題が起きると自分で解決できないかれらの姿を多く目撃されているからだろう、私の目にも入ってくるくらいだ。

 世の中が、家庭が、仕事がうまくいっていない時こそ、その人の責任感というものが顕著に現れる。そう言う意味では、この未曽有の危機に直面している2020年はそれぞれの人間の真価を問う絶好の機会なのかもしれない

 


profile筆者プロフィール

宮坂 龍一(みやさか りゅういち)
東京都出身。暁星高校、筑波大学体育学群卒業。
香港の会社、人事、芸能、恋愛事情にうるさい。

 

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