ゲージツ家のクマさん。日本人学校モニュメント「空へ」を監修

2014/03/24

ゲージツ家のクマさん。日本人学校モニュメント「空へ」を監修

 

ゲージツ家のクマさん

 

香港日本人学校小学部香港校は、老朽化した校舎の大規模改修を経て、2013年9月にリニューアルオープンした。現在、屋外の一角ではプレイグラウンドづくりが進められている。このシンボルとなるのがモニュメント「空へ」だ。同校ではリニューアルに当たり、「新たに子どもたちが遊べるスペースを作りたい。そこにアート作品だけど見るだけでなく遊べる、そして、子どもたちの生活の中で意味のあるモノとなるオブジェを作ってあげたい」と考えた。その夢が、香港で小売り事業を展開するフェニックスグループ会長の荻野正明さんの賛同を得て実現する。「鉄のゲージツ家(芸術家)」の篠原勝之さんの監修を受け、昨秋「空へ」プロジェクトがスタート。今回、仕上げの作業を行うために来港した篠原さんにお話を伺った。

■今回どういう経緯でタワーの監修をされることになったのですか。
フェニックスグループの荻野正明さんは昔からの知り合いで、東京で一緒に酒を飲んでいるときに、このプロジェクトの話になったんだ。荻野さんから、オレが奈良県にある馬見丘陵公園に作った「空へ」みたいな作品を作れないだろうかと言われた。あれは古墳が点在する公園に、古代人が見上げた空を現代人の目線で見ることをコンセプトとしたタワー。でも、今の子どもたちはひとりでじっと空を見上げることなんてないだろうから、空を見る装置を作るのもいいなと思った。それなら、子どもたち全員に、掌で何かを創りだしてもらって、それを外壁にらせん状に巡らせて空に向かわせようと考えたんだ。
筒型のタワー部分は完成。この中に入って見上げると、まあるく切り取られた空が見える。その空をじっと見ていると、足がふわっと浮いてくるような不思議な感じになるんだよ。夕暮れ時は白い壁が青みを帯びて見える。空の表情も刻一刻と変化し、二度と同じ空はない。そういう意味では、まさに一期一会。
中は音もおもしろい。山の上から回りながら下りてくる大型バスの音や風の音が上から落ちてくる。しゃべったり、かしわ手をたたいたりすると、エコーがかかったような音になるんだよね。
タワーの丸い入り口をくぐって中に入ると非日常の不思議な世界がある。そんな空間で、ぼんやり空を見上げながら、自分のことや昨日のこと、将来のことなどをしみじみ考える装置なんだな。芸術作品と言うより、それぞれが何かを五感を使って感じとる装置。うまくいったなと思うよ(笑)。
香港の職人と一緒に作り上げていくので、どういう感じになるのだろうかと思ったけれど、今回来てみるとイメージ通りに仕上がっていた。香港スタイルの竹で組んだ足場を目の前で見ることができて感動したね。昨日はこの足場に上って、職人とつたない言葉でやりとりしながら仕事もしたけれど楽しかったね。
■子どもたちは海、空、陸に生きるモノをテーマに、自由な発想でタワーに飾る粘土作品を作ったそうですね。今回はその作品を外壁に飾る作業でいらしたと伺いました。
メインとなる作業だからね。「海・空・陸に生きるモノ」言い換えれば「すべての生命」ってことだよ。作品は全校生徒プラス校長先生で合わせて341個。子供たちの作品は大きさもカタチも実に様々。現場でそのバランスを見ながら、どういう順番で、そして、それを斜めにしたり、下に向けたり、どんなふうに配置していくかを決めたんだ。おもしろかったね。
子どもたちの作品は自由でパワーがある。こんな細い足をつけたら折れちゃうだろうというモノや、ワケのわからない海鮮料理の見本みたいなモノもある(笑)。それがまたいいんだよね。わが道をいくといった低学年の作品が特にいい。社会性を身につけて分別が出てくると作品もつまらなくなってしまうのかもしれないね(笑)。
作品は、外壁に直線的ならせん状に並べるのではなく、間隔もマチマチ、高さもデコボコにして並べるようにした。やっぱり有機的なリズムがいいよ。まっすぐな線はすぐ飽きてしまうからね。
■篠原さんが作品を生み出すパワーやひらめきはどんなところから生まれてくるのでしょうか。
ゲージツ家は、朝起きて何もしたくない、何も創りたいモノがないと思ったらおしまい。でも、何かをレッスンして、そのエネルギーが枯渇しないようにしようとは思わないなぁ。前の日に飲んだ酒や、読んだ本が何か心にひっかかっていればいいわけだから。枯渇することを恐れていないし、ただのジジイになるのも悪くないかな、と思っている。でも今は朝起きるとやりたいことが2つ、3つある。「お茶を点てて飲もう。昨日買ってきた和菓子と一緒に飲むといい味になるだろうな」と思うのもゲージツの行為だと思っているんだ。
■香港の印象はいかがですか。
香港に来たのは今回が3回目。1回目は30年前位に、今は取り壊されてしまったクーロン城(九龍城砦)の迷路のような空間をグルグルと歩きに来たとき。2回目は昨年10月にタワーを建てる場所を見に来たとき。来るたびに印象が違って同じ場所ではないみたいだよね。食いモノは、ひとつひとつのイメージが実に豊かだと思うんだ。西欧料理には細かく刻んで成型した上にソースまでかけて、素材の形をわからなくしたモノも多いけれど、ここの食いモノは耳をすますと何かが聞こえてくる気がする。
今回作っているタワーも同じ。子どもたちが、友達や自分の作品ひとつひとつを味わったり、それらが空に向かっていく様子を眺めたり、タワーの中に入って空を見たりしながら何かを感じてくれればいいと思っているんだ。

尾野文彦さんと、クマさん

 

香港日本人学校〈エピローグ〉
香港日本人学校は1966年に、日本国政府の海外子女教育施策に基づき、香港在住邦人の総意によって設置された教育施設。現在、校舎が3つあり、「小学部香港校」は香港島のハッピーバレー(跑馬地)にある。
香港校のモニュメントタワー「空へ」は校門の近くに立つ。完成後、子どもたちは毎朝タワーを見上げながら登校することになる。タワーが設置されたプレイグラウンドの竣工は2014年4月を予定している。

■香港日本人学校小学部香港校
住所:No.157 Blue Pool Rd., HK
電話:+852-2574-5479( 事務局)
ウェブ:http://www.hkjs.edu.hk/~hkjspri/index.html

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