世界の野球~日本人指導者の挑戦~想定外の事態再び Vol.23

2018/05/28

2017年5月13日、全運会3戦目の相手は河南チームだった。これまでの相手より実力は劣るが、各選手の能力が均等でバランスのいいチームだった。とは言え、私たち香港代表のプランでは、勝てるという自信も持って望んだ試合であり、絶対に負けてはいけない相手であった。

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この日、後攻だった香港代表の先発は、チームで1番安定感があり、直球、変化球、そして制球のバランスが取れた香港代表の実質エースのサムを先発に指名した。初回、サムは四球でランナーを出塁させるも危なげなくゼロで抑えた。しかし、緊張なのか、体調なのか、この日のサムは本来の投球ではない感じはしていた。サムの良いところは、他の投手と違い大きく崩れないところである。野手陣が順当に3~5点は取れば勝てる試合だと私は思っていた。

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4回、そのサムが制球を乱し、まさかの連打を浴び一気に7失点をしてしまった。これまで好調を維持してきた野手陣も、ランナーを出しても次に繋がらず精彩を欠いた。最終的に、1-11と大敗し、私が再び悪夢を感じたのが「負け慣れ」をしている選手たちの態度・振る舞いであった。

これまで私が見てきたイランやパキスタンの選手たちの多くは、闘争心に溢れ、感情的で、血の気の多い選手が多かった。一方で、香港代表選手の多くは周りをみてから動き出す選手が多い。この試合、苦しい状況に陥った選手たちは、目の前のプレイをこなすのみで必死さはなく、良くない意味で「無」であった。私は試合中、何度も選手たちを鼓舞したが、それが届くことはなく試合を終えてしまった。

サムを早い段階で降板させることが出来たのは救いだったが、3戦を通して実力が上の相手に対する「苦手意識=決めつけ」を払拭することがチームとして出来なかった。また、この試合に負けたことで、決勝トーナメント進出の可能性が断たれた。ここまで、まさかの全試合2桁失点を喫し、鍛えてきた守備は崩壊、内野手は3試合で全員がエラーを記録した。もともと投手陣はチームの課題であったが、さらに自信を失っている様にさえみえた。私の感覚では、自信を失ったというレベルではなく「負け慣れ」している彼らは「開き直っている」ようにさえ感じた。全てが終わったように感じたが、本大会では下位チームの順位決めまで行われる。また、予選リーグ自体も2日後に1試合残っていた。

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私は帰りのバスで気持ちを入れ替え、その日の午後は日課となっていたホテルの隣にあるカフェへ足を運んだ。夜のミーティングに向けて、私は毎度一人で作戦会議をしている。すると、ある選手がやってきて、選手たちが「どんな過ごし方をしているか」を話してくれた。守備が上手で選抜されたはずの選手が試合でエラーを繰り返し、今は公園でひたすらゴロ捕球していると言う。調子の上がらない投手陣であったが、予選リーグ最終戦に向けてトレーナーのマッサージを受け、調整をしていると言う。この絶望的な状況に置かれてなお、ひたむきに準備する選手達。改めて、本当に野球が好きな選手たちの集まりだなと心が熱くなった。

私は大人のチームを見ている時、野球以外の過ごし方を強制したり、とやかく言ったりしない。それぞれの時間を自由に使い、それぞれの責任を持って試合へ調整していくように促している。なので、普段選手たちが何をしているのか知らないのだが、改めて話しを聞き、選手の想いに触れると絶対にこのままでは終われないと思った。選手たちは私を信じて、真摯に行動に移し続けてくれている。私の力不足で、さらなる自信の喪失へ向かわせてはいけないと思った。「何としてでも彼らへ勝利を与えたい」という思いが、心の底から再燃し、私は与えられた機会を全うしようと誓った。

(次号6月15日は「歓喜の香港野球!の一方で・・」)

色川冬馬

著者プロフィール
色川冬馬(いろかわ とうま)
2015年2月にイスラマバード(パキスタン)で行われた西アジア野球選手権にイラン野球代表監督として、チームを2位へと導く。同大会後、パキスタン代表監督に就任。2015年9月に台湾で行われた「第27回 BFA アジア選手権」では、監督としてパキスタン代表を率いた。2017年2月、香港野球代表監督に就任。色川冬馬をもっと知りたい方は「色川冬馬」で検索、講演依頼は[email protected]まで。

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